◆「安全のための知識と技術公開講座」    

  松田(正)さんから、山に関する講演会の議事録を頂きましたので紹介いたします。

 
講座名:「安全のための知識と技術公開講座」

講師: 鹿屋体育大学教授(登山の運動生理学専門)
     国立登山研究所 専門委員
     公益社団法人日本山岳ガイド協会 特別委員会委員
     山本 正嘉氏

演題: 「体力不足による登山事故を防ぐために」 およそ1時間。



ポイントは下記の通りです
[はじめに]
登山は思ったよりも大変な運動。ベテランと呼ばれる登山者の多くが体力不足であること。普段のトレーニングが山で役立っていないこと。
[脚力と心肺能力の不足が事故を招く]
長野県の事故統計、最多は転倒・転落・滑落などの「転ぶ事故」(56%)。次が「病気」(心臓疾患)の10%。 → 普段から脚力や心配能力を鍛えるトレーニングをしておけば防げる可能性が高い。
[ベテラン登山者の多くは体力不足]
ベテラン登山者164名(平均年齢59歳、登山経験20年)へ山で起こるトラブルについてアンケート。 
7時間以上、累計標高差1000m以上の健脚コースでのトラブル、ワースト3は、「筋肉痛」、「膝の痛み」、「下りで脚がガクガクになる」 ← 脚力不足 = 転ぶ事故に。
4位の「上りで苦しい」 ← 心肺能力の不足 = 心臓疾患の引き金に。
164名の体力測定は同世代の一般人よりはずっと優れていた。
すなわち、それでも山でトラブル多発 = 登山が非常にハードな運動ということ。
[登山はジョギングなみの運動]
Mets(メッツ)値(安静時の何倍のエネルギーを使うかを意味するもので、1〜11まで)ハイキングで6、無雪期登山で7(ジョギング、サッカー、テニス、スキーと同等)、雪山/岩山で8。
例えば北アルプスで6時間の縦走をしたとすれば、6時間のジョギングをしたのと同じ負荷が、心肺や脚肉に対してかかる。
[役立っていない普段のトレーニング]
トレーニングしていることと、それが山で役立っていることとは別問題。
7000人余りの登山者にアンケート、最多のトレーニングはウオーキング。それが登山に役立っているか検証してみると余り役立っていないという結果。
空身で平らな道を歩くだけでは、荷物を背負って坂道を歩く登山のトレーニングにはなりにくい。
階段の上り下りも同様。駅の階段(1階分で5〜6mの標高差)を数回上り下りする程度では十分な効果は期待薄。
16往復(40分)すれば効果あり。
[自分の体力をチェックしてみよう]
六甲山ロックガーデン(登り約1000m、標準コースタイム時間)での「六甲タイムトライアル」イベントでの体力評価に基づくと、日本アルプスを無理なく登るためには、1000mの標高差を3時間以内で登れる(1時間あたりで333m登れる)体力が必要(Bランク)。
3〜3.5時間かかる人は、本格的な登山をするには不安が。
自分の身近にある山でも測定可能。
傾斜がゆるすぎず、下り区間を余り含まないコースを見つけ、1000mの標高差を何分で登れるかをチェックする。
低山で1時間で333m以上のペースで登高するトレーニングを繰り返すことでも可。
[おわりに]
登山に要求される体力は想像以上に大きい。平地ウオーキングのようなトレーニングでは負荷が弱く、本格的な山では余り役立たず。
この点に気づかず、自分の体力に不相応な、つまり自信過剰な登山をしている人がたくさんいる。
「危ない登山者とは自分のことかもしれない」という意識改革から安全登山の第一歩は始まる。


以上ですが、興味深い数字も紹介されましたので、是非続けて読んでください。


1) エネルギーと水分補給の指針
  • エネルギー消費量(kcal)=体重×行動時間×5。
  • 脱水量も同じ考え。 例えば体重60kgの人が6時間歩いたとすると、60Kg x 6時間 x 5=1,800kcal、1,800ml(一升相当)の水分が失われていること。
  • 水分補給は1時間に1回、エネルギー補給は2時間に1回。

2) 陸トレ方法
  • スクワット、10回 x 3セットを週に3回
  • 慣れれば 15回 x 5セットを週に3回
  • 上体起こしも同上。

ちなみにこの教授曰く、「年間登山日数を24回、月平均2回行うことで十分な登山に必要な体力が養われます」とのこと。さて、皆さん陸トレを初めとしてまずはやってみますか?

なお、この講演の前に、著名登山家の1人である今井道子さんの「今井道子の山への想い」という話も聞きました。若い時代にヨーロッパアルプスで腕を磨くためにフランスのシャモニーでの活動の話や、カモシカスポーツの代表取締役である高橋和之氏との出会いや、当時の日本の若いアルピニストの話しがありました。その中で、長らく私の勤務するミズノのシャモニー現地社員であった関野寿さんの名前も紹介され、うれしく思いました。

関野さんは早稲田大学一年のときに北壁に見せられ、シャモニーに行き、そのまま地の人となり、フランス人の奥さんと二人のお嬢さんがいらっしゃいます。フランス国家認定高山ガイドの資格も有しておられるようです。

以上長々と書き連ねました。 一度じっくりとご自信の体力と今後の山との向き合い方を考えて見ませんか?

   以上