◆恐怖の道迷い(無謀登山はやめましょう)   

 常盤さんから山行のご報告を頂きましたので紹介いたします。

 
 6月5日 日高警察署発 折からの梅雨で悪天候の中、雨具などの装備不十分、非常食も持たず、地図など読解できない中年登山者が無謀な単独登山を試み、あろうことか山中で道に迷いました。道迷いに気づいた時点で引き返すのが登山の常識ですが、この登山者はそのまま進んでしまい、大事一歩手前にまで至ってしまいました。偶然が重なり事なきを得ましたが、当の東京都板橋区在住Tさんは、「どってことないっすよ」と蛙の面になんとかの態度で、常識をわきまえない行動に地元消防の怒りはおさまりません。

 6月5日(日)雨模様。ほんとうはこの週は甲斐駒ヶ岳に行く予定でした。今年の梅雨は陰湿で、週末ごとにやれ台風だ、やれ低気圧だ、今回も土・日だけは悪天候保証という気象庁の御託宣で、直前に中止となりました。

 ところが前日の予報では、土曜の午前は雨だがその後は小康状態、日曜の夕方からまた崩れるという、チェンジアップのような小さな変化となりました。それじゃあ一人でどこかに行こうかと、近場でおもしろそうな場所を検討したのでした。

 新宿、池袋あたりを起点にして、西方に1時間ほど行くと、1000メートルくらいの小さな山がたくさんあります。箱根、丹沢、高尾、奥多摩、奥武蔵などなど。箱根とJR沿線は交通費が高いし、丹沢は山ヒルが恐いし。と言うわけで、最近は高尾山周辺にちょこっと行くことが多いのですが、地元の東武東上線や西武池袋線沿線の山々も捨てたものではありません。今回は、西武池袋線・飯能の先、吾野から子の権現〜竹寺というハイキングコースを歩いてみることにしました。

 吾野周辺で最も人気の高い山は「伊豆ヶ岳」かと思います。正丸駅から正丸峠を経て伊豆ヶ岳を目指します。頂上直下の男坂はけっこうきわどい岩場で、転落事故があったため進入禁止の立て札があります(自己責任といった記述もあったので登ったことがありますが、ちょっとひやりとさせる場所もありました)。

 ここから稜線を縦走し、天目指(あまめざす)峠というなにやら伝説のあるらしい峠から登り返すと、子の権現(ねのごんげん)です。今から1000年以上前に開創された天台宗の名刹で、たいそう人気のあるお寺です。境内には、巨大な鉄下駄や巨大な鉄草鞋が飾られており、足腰祈願というキャッチコピーが掲示されていたりします。

 上記のように、伊豆ヶ岳から子の権現まで縦走して、吾野に下山したことは何度かありました。しかし子の権現から1時間くらいのところに竹寺(正式には八王寺)という美しそうな名前の寺があることが気になっていましたが、なんとなく訪ねる機会がありませんでした。どちらの寺もハイキングコースと車道があり、ほとんどの人は車で上がってきます。しかし、これらの寺を目的地として歩いた場合、駅から2時間程度のお気軽ハイキングが可能です。

 直接、子の権現に行く場合、西武池袋線の吾野もしくは西吾野で下車します。どちらからでも1時間半くらいですが、標高差は460メートルとそこそこたいへんです。今回は吾野で下車し、半分は車道、残りは山道というコースを選びました。晴れてはいないけれど、降ってもたいしたことのなさそうな空模様だったので、雨具は省略。全部で3時間くらいの行動なので、食料はコンビニお握り2個のみ、水は水筒に300ccのみ、ザッツオール。

 最近の地方のバスの事情は大変厳しいものがあります。1時間に1本などという生やさしいものでなく、午前2〜3本、夕方2〜3本、このあたりが標準と言わざるを得ません。例外は、近郊の人気登山口までの路線でしょうか。渋沢から大倉とか、高尾から小仏峠などなら、時刻表を確認しないでもなんとかなります。

 今回は竹寺から小殿という名栗付近のバス停に下る予定でした。飯能から名栗地区へは1時間に2本ずつくらいバスが走っている優良路線です。予定のバスに乗りそこなっても、次のバスまで待つことができます。念のためバス会社のHPで時刻表を調べ、メモを持参しました。小殿バス停から飯能行きバス、下山予定の10時ころ、9時44分、10時04分、10時42分。11時台にも2本あります、ノープロブレムですね。

 もうひとつ、竹寺の東側に中沢というバス停があります。しかしエアリアマップによるとバスは1日に4〜8本となっており、休日はきっと4本だろうからこちらは使えません。関係ないので、こちらの時刻は調べる必要ないよね。

 いつものように早朝の電車で池袋、6時前の西武線で飯能、乗り換えて吾野到着が7時です。道標に導かれて子の権現を目指します。車道ですがだんだん傾斜がきつくなり、息があがります。1時間近く歩くと山道になり、8時半には最初の目的地である子の権現に到着。今回は山の安全を願って大枚100円もの賽銭を投入しました。

 つぎは竹寺です。ここのコースは初めてです。あまり登り下りのない快適なハイキングコースですが、本日第一番目のハイカーだったらしく、登山道の至る所にくもの巣があってとても気持ち悪いです。長年山登りを続けていますが、ヘビとか、トカゲとか、もちろんクモも大嫌いです。あえて本音を言えば恐いです。

 暗い樹林の道がやがて終わりになり、前方が明るく開けてきました。薄緑色の竹林が現われます。初めての竹寺です。少し先のほうに建物が見えます。とにかくそこまで行きましょう。そこから小殿に向かって下山です。9時半だから10時04分のバスに間に合いそう。

 買ってきたお握りは、電車の中でひとつ、子の権現でひとつ食べてしまったので、もう口にするものはありません。小腹がすいてきたけれど30分でバス停だし、残った水も、もういらないからジャーと捨ててしまいましょう、軽い軽い。小雨が降ってきたけれどまあ良いさ、春雨じゃぬれていこう、だわさ。

 竹寺付近は小道が細かく分かれています。初めての場所だし、間違えてはいけません。境内を通り抜け、駐車場を過ぎ、車道をスタスタ歩きます。道標を見落とさぬよう注意しなければね。スタスタスタスタ、高度計とにらめっこ。おいらは下りが得意なのさ。1分で20メートルくらい平気で下れるのさ。

 5〜6分で「竹寺まで500メートル」の標識。標高差で100メートルくらい下ったかしら。れれ、おかしい。やおら地図を取り出します。しかし悲しき57才、細かいところが読めません。たしか竹寺からすぐのところに分岐があるはずなのに、けっこう進んでいます。もしかしたら中沢バス停に向かっているのかも知れない。焦点が合うのに十秒ほど、地図を目から離して確認します。しまった、そのとおりなのでした。

 小殿に向かう登山道は、竹寺の直前で分岐しています。分岐点を確認してから境内に入り、参拝したあと戻らなければならないのでした。さっき、樹林が終わって竹林が現われたあたりから警戒すべきであったのに、小雨と小腹に気をとられ、調子に乗って行き過ぎてしまったのでした。

 名誉ある撤退という言葉が頭にうかんできます。しかしここから戻るのはシャクです。後ろを振り返ると、今下ってきた道が絶壁のように見えます。下りが得意という、自分の能力の高さが悔やまれます。この絶壁車道を戻るくらいなら、先に奈落が待っててもいいや、良く調べなかったけれど、中沢とかいうバス停に向かってGO。だけれども、中沢に行くと、なにか困ったことになってしまうようなかすかな記憶が・・・。

 しまったぁ、中沢に下ったらバスがあるかどうか調べていない。たしか、一日数本だったはず。もう一度地図で確認、バスがなかったら10キロ以上、2時間の林道歩きになってしまう。お腹がぎゅうと鳴ってきます。依然、雨がぱらぱら降ってきます。

 これは数年前の高尾山頂上で遭難騒ぎ(あまりの人の多さで、頂上の石垣からこぼれそうだった)以来のピンチです。一日数本というバスをキャッチできるか、それとも2時間の林道歩きを強いられるのか、お祈りすることのみが私に出来ることでした。

 9時55分ころ、前方にバスの待合所らしき建物が見えてきました。まさしく中沢バス停でした。神様お願いはチェッカーズ、もっと古くはテンプターズにもあったよね。混乱した頭で時刻表を読みます。たしかにお昼ころは2〜3時間空白になっていてバスがないことがわかります、うう。

 ところが、おおなんと!10時09分飯能行きがあるじゃないの!今何時?そうね、だいたい9時57分ね。歓喜でなかなか引き算ができません。10分ちょっとで来るじゃないの。すんでのところで2時間歩行となるところが、タバコを吸いながらの10分バス待ちへと変わった瞬間でした。

 これ、すべて子の権現での100円のご利益と思われます。いやもう少し合理的に考えて見ましょう。小糠雨なのに傘もささず(傘がない)、食料を早めに食べつくし、水まで捨てた超軽量化作戦が功を奏し、歩行を早めたせいに決まっています。へへ、おいらの作戦勝ちさ、現代のクライミングはギリギリの軽量作戦での速攻なのさ。

 バスがやってきました。下車するお客ゼロ、乗車するのはワタクシひとり。それなのに運転手に車掌つきという豪華版。いちばん前の席に陣取って景色を眺めます。発車してから20分ほど、新寺というところで名栗方面からの道に合流します。下山が15分遅れていたら、ここまで歩かなければならなかったのであります。つくづく思いました。「絶対あきらめなければ、願いはきっとかなえられるもの」なのさ(会社で毎日のように言わされている呪文です)。

   吾野のセメント工場脇を通る


子の権現の山門



大草鞋



巨大な鉄下駄



暗い樹林の先に明るい竹林



わかりにくい案内板



10時09分のつぎは?



竹寺の入口付近



中沢から新寺まで10キロくらい



竹寺の手前を曲がって小殿、そのまま行くと中沢

 

 
  常盤(S51)