◆JISHU WAN 厳冬期・瑞牆山


 1月31日は終日冷たい雨でした。“さっぶいなあ、こりゃあ山サは吹雪だべ”、思わず東北弁でつぶやく私でした。いつもの相棒に“ほいだら山サいぐべか”と誘えば、“んだ”、で早速登山が決定したのでした。

 「標高がそこそこ高く、きちんと雪があり、東京から日帰りできて、比較的安全な山」なかなか相反する条件ですが、一心不乱に考えれば良い答えにたどり着くものです。そして今回は、奥秩父の瑞牆山に決定いたしました。どうです?上の条件をすべて満たしていますよね。ちょっとえへんです。

 相棒はいつもの始発(西鎌倉5時半)で、私はゆっくり6時過ぎ出発、いつもの明大前に6時50分集合です。この日の景色は出色であり、勝沼から南アルプスがこれまでになくくっきり見えました。でも北のほうには雪雲がもくもくしており、風が強まることが予想されました。

 中央高速を韮崎で下りて、韮崎増富ラインで増富ラジウム温泉へ。以前は鉱泉と呼んでいました。このほうが趣あると思うのですがいかがでしょうか。ここから先は各所で凍結し、ノーマルタイヤでは少々厳しい道です。なんとか騙しだましノーチェーンで済ませました。

 登山口のみずがき山荘前駐車場に9時20分着、気温はマイナス2℃。登山靴に履き替え、雨具をジャケット代わりに着込み、毛糸の帽子、軍手というスタイル。ピッケルは持ちますが、ものぐさなのでアイゼンは嫌いです。9時半すぎに歩き始めます。

 カラマツの疎林のなかの道、地面は降雪で真っ白、なかなか気分がよろしいです。15分ほど坂道を登ると林道が現れ、さらに15分で富士見平に到着。ここはかつて野歩の会、初夏の山行を行った場所。焼きハマグリ、うまかったなあ。小屋は当然ながら営業していませんが、前夜は何人か泊まった模様です。リュックサックがいくつか置かれていました。

 おにぎりを一つ食べて、いよいよ瑞牆山へと向かいます。小屋の裏手を少し登り、しばらく水平の道となり、10分ほど下れば天鳥川(あまとりがわ)です。ここは標高およそ1800メートル、頂上は2230メートルですからその差は430メートル。相当な急坂が待ちかまえています。

 5万図で測ると、その水平距離はおよそ1000メートルです。水平距離1000で標高差430、tan0.43となりますが、三角関数表によれば斜度23度くらいです(こんなことまでパソコンで調べられるのですよね)。ただし道のりは2倍の2000メートルくらいありますから、tan0.215で12度くらいです。でも平均で12度って大変なものなのですね。

 天鳥川からすぐ先に凍った階段、しばらく行くと10メートルくらいの急傾斜のアイスバーンとなります。固定されているロープに身を委ねて無理やり持ち上げます。上へ行くにしたがって傾斜は次第に増してくるし、雪も深くなってくるし、汗がにじみ、呼吸も荒くなります。

 大岩をぬうように登り続け、12時すぎにようやく頂上の近くに達することができました。そしてさいごに樹林がぽっかりあいて、頂上に飛び出します。強風でガスがわいていて、最初は遠望がききませんでしたが、サッと吹き飛ぶと予想以上の景色が目に飛び込んできました。おなじみの富士山、南アルプス、八ヶ岳、遠くに中央アルプス、残念ながら北アルプスは雲の中でした。しかし最も印象的だったのが金峰山と小川山、その山腹の雪に覆われた森林です。まるで(行ったことありませんが)八甲田山のようでした。

 12時半から下ります。登りで苦労した急傾斜の道も、バコバコと雪を蹴立てて進みます。1時間ほどで天鳥川、そこから20分で富士見平、さらに30分でみずがき山荘の駐車場です。あとは一気、2時間少々で都内へ。ずいぶん便利になったものです。そして最後の驚きは小仏トンネルでした。トンネルの出口からはるか先に地平線と高層ビル群がくっきりと。よく考えれば高尾山のすぐ下ですから、都内の高層ビルが見えるのは当たり前なのですが、夕方のこの時間、まるで砂漠で蜃気楼を見たようでした(見たことないけれど)。

(写真はこちらです。)
 

常盤、同行・浜田