◆白峰三山一泊二日(2枚のオプションカード)   
甲斐駒ケ岳の雄姿

 常盤さんから初夏の山行のご報告を頂きましたので紹介いたします。

 
 昭和47年8月、大学一年の時の夏合宿は、甲斐駒ヶ岳から仙丈ヶ岳、いったん両俣に下って北岳に登り返し、白峰三山縦走後に奈良田へ下山というものでした。前半は省略しますが、両俣小屋から北岳山荘(当時は北岳稜線小屋)へと登り(幕営)、農鳥小屋、大門沢小屋と幕営を重ねて奈良田へと下山したのでした。つまり、両俣発、山中3泊4日ということになります。合宿の前半で痛めた足(かかとの靴づれと足指の豆)、背中のザックづれ、たまった疲労とモチベーションの低さが原因で、生涯最高に辛い山行になりました。

 その後、北岳には何回か登りましたが、間ノ岳以南にはまったく足を踏み入れない日々が30年以上続きました。2005年9月に相棒・浜田氏と、一泊二日で可能なんじゃないかと相談し、まずまず問題なく完遂できました。初日はあずさ号とバス利用で、11時に広河原着、白根御池経由で北岳肩の小屋3時半着。翌日は4時出発で、奈良田温泉3時半着でした。

 今回もこの6年前の山行と同じような行程で計画しましたが、一部手直ししました。初日の広河原までをタクシー利用とすることで、出発を1時間早くすることが可能。これで、山中で多少の遅れがあっても前回並みの3時半か4時くらいには肩の小屋に到着できるでありましょう。

 2日目も出発を3時ころとし、まずは1時間のアドバンテージ。前回9月、今回7月ということで、日の出がおよそ1時間違います。3時だとまだヘッドライトの世界ですが、20〜30分で薄明かり・不要となります。各山頂などの休憩を少なくして、機敏な行動を心がけ、時間短縮をはかる。このようにして、奈良田に前回の1時間遅れ、4時半到着は十分可能と計算しました。

 なお、それにしても本コースの一泊二日というのは、もともとオーバーワークであることは承知しています。通常は二泊三日、高年齢のパーティで三泊四日と紹介してあるWEBページもありました。そこで私は、2枚のオプションカードを用意しました。初日にへばったら、途中の白根御池小屋に泊まる。この場合は北岳往復だけになる。もうひとつ、2日目は農鳥小屋通過が8時過ぎになるのは必定であり、オプションカードを切るのは次の小屋である。つまり大門沢小屋で行動停止とすることが可能。こういった予備日を設けるため、混雑が予想され、いつもは避ける「海の日3連休」に実施する運びとなりました。

 メンバーは7名です。
 平石さん 今回、モンベルの靴を新調、意欲満々。
 三木さん へっちゃらだよと、いつものとおり。
 石井(啓)さん 1ヶ月ほど前に足に細菌が入り、一時歩行もままならなかったが、一週間ほど前から回復。
          それでも多少の痛みが残り心配。
 松田さん 数日前から胃腸の調子が悪いが、だいたい回復してきた。
 松久君 月曜勤務であり、最終日の大門沢小屋泊まりは避けたい。
 中村(明)さん 月曜は勤務はないが、愛車の点検と友人と遊ぶ約束あり。
 常盤 とくに問題なし。

7月16日(土)
 南海上で発生した台風6号がゆっくりと北上を始めていましたが、この日と翌日にはなんら影響が出ないことは確定的。18日(月)は多少影響を受けそうだなあといった按配で、朝から快晴・上々の天気でした。

 新宿7時のスーパーあずさと7時03分のかいじに分乗して、どちらの電車も甲府に8時半ころ到着です。★スーパーあずさは「トクだ値」35パーセント割引が使えてお得。かいじはガラガラですから、普通に切符を買うならこちらのほうがお得。なお、甲府駅で駅弁を購入する場合は注意が必要です。改札口の中に売店があり、外にはありません。うっかり外に出てしまっても、通常は買い物だからと再入場させてくれるものですが、「駅弁を買う場合は入場券を買ってください」との掲示。そりゃないよね。

 甲府から広河原までバスだと、9時発・10時56分着、1900円。駅前には多くの登山者が並んでいました。山梨交通は乗客の安全のためか、全員が着席できるように果てしなく増発します。今回は5台だそうです。途中、トイレ休憩もあります(前回の経験です)。

 私たちは上記のようにタクシーを予約しておきました。4〜5名なら中型タクシー利用となり、駅前にうじゃうじゃ客待ちしていますが、私たちの場合ジャンボタクシー1台がベストです。1ヶ月前にタクシー会社に問い合わせたところ、その会社には2台しかないとのことで、その場で予約しました。★タクシー代は16000円でした。一人当たり2285円。バスより1時間早く到着できるメリットを考慮すると、まずまず良い選択だったかと思います。なお中型なら14000円くらいです。5人なら絶対タクシー、4人だとちょっと考えてしまいます。このほかに、バスでもタクシーでもひとり100円の「利用者協力金」を支払うことになっています。

 10時すぎに広河原到着、10時半出発。白根御池小屋までは休憩を2度はさんで3本で到着、予定通り。登山道は傾斜がきつく、梯子などが連続して、思ったより体力を消耗します。とくに松田さんがきつそう、大汗をかいてシャツをしぼっています。まずまず順調だったので、ここで行動停止という、最初のオプションカードは切らずに済みました。

 ここからは草すべりと呼ばれる急登です。御池小屋までの樹林の歩きにくい登山道とうって変わって、小石まじりではありますが歩きやすい道。ゆっくり着実に、50分で標高差200メートル以上かせぎます。しかし最初の休憩で松田さんに若干の異変が。ちょっと足がつってきました。屈伸運動をするなりして様子をみます。つぎの休憩は大樺沢右俣コースとの合流点ね。

 ダケカンバの樹林がまばらになり、見事なお花畑が現われました。上を見上げると岩稜地帯が近づき、右俣合流が近いことがわかります。休憩予定地点まで道のりであと200メートルくらいかというところで、松田さんが足の痛みでダウン。ちょっと休んで回復を待ちましょう。と一休みしたのですが、ふくらはぎだけでなく、大腿四頭筋も痙攣、しかも両足。理学療法士の松久、中村両君が面倒をみてくれます。筋を伸ばすのに、ギュギュとやってはだめで、やさしくギュ〜とやるのだそうです。
 
 しばらく休んで多少回復し、松久君が松田さんのザックをダブルで持ってくれて、ゆっくりと登ります。小太郎尾根からは楽しい稜線歩きだったはずですが、一ヶ所だけ鎖混じりの急な場所があり、たった20メートルばかりなのに結構苦労しました。肩の小屋には予定の範囲内、16時30分に到着。

 一年で最も混雑する「海の日3連休」、予想通りの混雑です。すでに夕食が始まっており、私たちは受付を済ませても小屋の中に入れません(食堂のスペースが寝床になるため)。今回は自炊だったので、外のベンチで夕食となりました。幸い気温も高く、風もなかったので楽しい夕食となりました。メニューはお握りと唯一の料理・豚汁。私は缶ビール3缶。大量のビールなのに、おしっこの近い私でさえほとんどトイレの用がありません。だれもが相当の発汗だったようです。今回の松田さんは、体調悪からの異常な発汗、それによる塩分などのミネラル排出による痙攣であろうかと推測できます。

 小屋に入ったのが18時過ぎ、スペースはひとり畳半分くらい。まずまずの広さでした。6時半か7時ころ就寝。平石さんのいびきがけっこう大きく、鼻をつまんでやろうと思いましたが、もちろん思っただけです。

7月17日(日)
 例によって、常盤は2時起床(1時ころから起きて、タイミングをはかっていました)。全員を起こして外に出ます。月齢はほぼ満月であり、満天の天の川を見ることはできませんでしたが、歩くのにはちょうど良い。またもお握りなどの粗食で腹をこしらえて、3時半に歩き出しました。当初の予定では3時としていましたが、問題ないか?

 今回、三木さんがヘッドランプを忘れてきました。月明かりもあるし、登りだからそれほど危険は感じません。畑中葉子の「後ろから前から」を全員で合唱しながら、三木さんの足元を照らしつつ登ります。15分くらいでヘッドランプほぼ不要の薄明かりとなり、4時10分ころ、本邦第二位3193メートル(三角点は3192だが、数メートル南に少し高い場所があり、国土地理院も最高点は3193メートルとしています)北岳に登頂しました。

 この3時半出発、4時10分到着(計画では3時出発、3時40分到着)がつまづきの第一歩でした。だんだんと明るくなり、日の出間近です。少なくとも4時半には出発と思っていましたが、ご来光を拝んでから出発するのが日本人というものです。4時38分ころ待望の日の出となり、写真を撮るなどして4時40分出発。ここで計画を1時間オーバーです。まあなんとかなるでしょうか。

 北岳からおよそ50分で北岳山荘到着。★肩の小屋のトイレは昔ながらの「便所」ですが、北岳山荘のそれは最新のバイオトイレ。その差は100倍くらいの違い。5時半だと、北岳山荘の登山客は大半が出発しており、トイレはすいていました。

 ここから40分の登りで中白峯、小憩のあと間ノ岳へと向かいます。だんだんと気温が上がり、気持ちの良い稜線なのに暑さが気になりだします。間ノ岳を過ぎて大きく下ると農鳥小屋です。中村さんと常盤トイレ先行隊は8時50分到着、後行隊は9時すぎ。★ここのトイレは多分日本一です。ボットンの下に斜めになった波状トタン板が敷設してあり、いわゆる垂れ流し。しかしトタン板の傾斜が緩いため、「垂れ」ないのです。つまりそのまま。私は恐いから入ることもしませんでした。

 あとは西農鳥岳と農鳥岳に登るだけ。しかし農鳥小屋出発が9時20分(予定では8時すぎに通過)となったため、そろそろ時間が気になります。目の前の西農鳥岳へはきつそうな急坂。先頭の平石さんのスピードが急激にダウン。ここまではコースタイムより若干早いスピードでしたが、1.2倍か1.5倍くらいかかっています。平石さんのペースダウンは何ら問題ないのですが、これではこのままゴールインはほぼ無理だな、
 いよいよオプションカードを切る決断をすべき時であると判断しました。

 歩きながら考えたこと。次の休憩で隊を2分する。今日中に帰るべき松久君と、帰ったほうが良い中村さん、付き添いの私が先行する。先輩方4名は自分のペースで大門沢小屋まで、何時でも良いから歩いてもらう(もう登りはほとんどありません)。私は大門沢小屋で先輩方を待って、そこでもう一泊する。大門沢小屋から家への連絡手段があるかどうか不明なので、下山する中村さんに「帰りが一日ずれる」旨の電話をしてもらう。西農鳥岳手前のピークで休憩したときに手短に説明し、先輩方を残してささっとスタートです。

 農鳥岳11時10分通過。奈良田のバスは17時05分であり、ほとんど下り一方なのにコースタイムギリギリです。標高差2000メートル下るのにほんとに6時間もかかるのかしら?たとえば丹沢の大倉尾根なら1時間半で1200メートル下るので、2時間半くらいあれば2000メートルなのにね。富士山なら同じ標高差2時間なのにね。

 6年前の記憶は薄いのですが、とにかくバリバリ下って、4時間半くらいでした。というわけで大門沢下降点からいよいよ急下降です。何でそんなに時間がかかるのか、すぐにわかりました。とにかく足元が悪いのです。ザレザレなので、スコスコ飛ばせません。一歩一歩踏ん張らなければなりません。そのために余分な筋力を使い、どんどん消耗してしまうのです。稜線から1時間少々で大門沢の河原、ここに13時到着、13時15分発。なんと久しぶりに私が遅れだします。足が前に出ず、踏ん張りがきかないでよろけて倒れます。一度などつまずいて前を行く中村さんにぶつかり、嫁入り前の娘の胸の辺りをムギューとつかんで、転倒を免れたこともありました、いやはや。

 13時45分大門沢小屋着。ここから奈良田までコースタイム3時間半。17時05分のバスに乗るにはコースタイム以上の速さで歩かねばなりません。そこで最後の手段です。バス発車の後、タクシーを呼んで、さらに最終電車利用というオプションにもないカードを切ればなんとかに帰れます。念のため最終を調べておいたことが役に立ちました。奈良田に6時到着が限度、これなら4時間あるから大丈夫でしょう。

 というわけで14時にふたりを送り出して、小屋の前で先輩方の下山を待ちます。1時間か1時間半くらいは遅くなるでしょうね。缶ビール2本がなくなるころ、14時45分、おお、石井さん到着、汗びっしょり。ほかの3人は?私が休んだ大門沢の河原までいっしょだったのですが、石井さんはここで休みをとらずに、状況を私に知らせるべく一気に下ったのでした。恐るべき気力・体力。水を持ってすぐに迎えに行くという石井さんにとりあえず休んでもらいます。河原からヨロヨロした足取りの私が30分で下ってきたのだし、危険な道ではないので大丈夫ですよ。

 それでも、このまま何もしないわけにはいきません。酔った身体に鞭打って、さっき下ってきた道を登り返します。途中すれ違う人に、「ヘトヘトになった3人組を見ませんでしたか」と質問。「ああいましたよ。そう言えば頭を抱えて動かなかったなあ」との答え。河原と小屋の半分くらい登ったところで、ついに先輩発見。良かった良かった。三木さんは元気でしたが、平石さんは足の豆がつぶれたそうでとても痛そう。松田さんは拾った棒切れを杖代わりに下っています。今日は痙攣はなかったとのことで、前日余分に筋力を使ったために、その影響が残ってしまったこと明らかです。また思わぬ暑さで、水分が不足したこともバテた原因でした。少し後で、小屋で休んでいてくださいと言ったはずなのに、石井さんもここまで登ってこられました。いやもう頭が下がります。

 こうして、大門沢小屋に全員が16時到着です。★大門沢小屋について。ここから3時間か4時間あれば奈良田温泉に下れます。もうそれほどきつい道ではありません。到着が2時か3時最悪4時でも、最後の1時間は車道ですから、体力的に余裕があれば十分下れます。同じくらいの料金で温泉に入れるし、おいしいご飯とあたたかい布団で寝られます。それなのに、どうしてここで泊まる人がいるのかというと、へとへとでもう限界という人ばかりだからです。事実、先輩達を待っている間、何組もの登山者がそんなことを相談しながら下っていきました。要するに、弱った人を相手にした殿様商売なのです。★受付のおっさんの態度がでかい。お疲れ様の一言もない。幕営指定地なのですが、テン場が満杯でした。これは仕方ないです。素泊まり(寝具なし)4000円、寝具付き4500円、夕食付き6500円、2食付き7500円、これも妥当でしょう。幕営を断られた客が素泊まりを頼んだら、「その場所はなくなったので、寝具付きの場所の泊まってくれ」と答えていました。どういうこと?小屋は何の労もなく500円余分にゲットです。★私たちは三木さんの発案で、夕食のみ6500円で申込みました。つまり夕食代2000円です。ごはん(お代わりなし)一杯、みそ汁(お代わりなし)一杯、川魚の甘露煮、シバ漬け少々、わらび少々、おわり。ちょっとひどすぎませんか?朝食は頼みませんでしたが、1000円の朝食がどんな内容だったのか想像できます。上記の夕食マイナス魚、たぶんこんなものでしょう。

7月18日(月)
 またまた早朝の起床です。2時半に皆様を起こします。3時に朝食。石井さん供出のジャンボカップヌードル、即席ワカメの吸い物、クラッカー、缶詰など。満足感の高い食事を終えて、4時に出発です。谷間の道なので暗くてわかりにくいです。畑中葉子で下りましたが、2度ほど道を間違えました。不安定な橋を渡るのに、四つんばいになるところもありました。それでも無事に6時50分、林道到着。昭和47年当時はまだ林道はなく、延々と細い道を下ったものです。

 ここからコースタイム25分で第一発電所バス停、ここで終わっても良いのですが、自販機もなにもなく、コーラを飲みたい私は、先輩方に無理言って、あと30分先の奈良田温泉まで歩いてもらうことにしました。しかし到着がバス出発の直前になり、ちょっと遅れてきた先輩方は、何も口にせずにバス乗車となってしまいました。私はちゃっかり飲みました。★奈良田からバスで身延へ出て、身延線で甲府に出る、これが常識です。しかし今は違うのです。奈良田発広河原行き、野呂川沿いの県道が整備され、山梨交通のバスが走っています。奈良田8時発、広河原8時50分着です。広河原ではつなぎの乗り合いタクシーが待っています。スイスイと10時半には甲府に出ることが可能です。もちろん本数が少ないので、行き当たりばったりではダメ。今回、万一を考えて調べておいたことが功を奏しました。奈良田ではタッチの差で座れませんでしたが、先ほどの第一発電所では乗りこぼれる人が出ました。コーラを飲みたいという私のわがままが、ひょんなことで役に立ちました。人間万事塞翁が馬ですね。

 広河原から甲府方面、タクシー乗り場がふたつあります(乗り合いのジャンボタクシーが小型バスのように運行しています)。ひとつは甲府駅、もうひとつは芦安です。この芦安とは「芦安大駐車場」のことで、甲府へ向かう道路とは少し離れています。電車の人は甲府行きに乗車、マイカーの人は芦安行きに乗車します。私たちは芦安大駐車場前の温泉で入浴しました。先ほどのとおり、ここは広河原への発着場所であり、甲府行きのバスはありません(10分ほど歩けばバス停がありますが、広河原から甲府への乗り合いタクシーは通過してしまうので、本数の少ないバスしか利用できません)。というわけで入浴時に甲府までのタクシーを予約し、11時過ぎ、楽々と甲府に出たのでした。

 松久君、中村さんの動向ですが、この日、奈良田温泉近くで携帯が通じたので前日の様子がわかりました。磨り減った体力で、コースタイム3時間半の道のりを3時間で下り、5時05分のバスに間に合ったそうです。とくに中村さんは生涯最大の筋肉痛に襲われたそうで、しかたないけれど良く頑張ったねでありました。


写真はこちら(その1)(その2)です。
 
 常盤