◆自主ワン GWの爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳   

 常盤さんから自主ワンのご報告を頂きましたので紹介いたします。

 

 ゴールデンウィークの晴天を狙って、爺ヶ岳鹿島槍ヶ岳に登ってきました。野歩の会の山行とは趣が違うため、今回はまったくの自主山行、皆様にアナウンスはいたしませんでした。

 爺ヶ岳方面への最も整備された登山道は、扇沢(アルペンルートの長野側入り口)から柏原新道でありましょう。3時間から4時間程度、ほとんど危険な場所はありません。3年前の夏の山行において、歯痛で直前キャンセルされた中村先輩が、周辺の観光に飽きてしまって、この道をひょこひょこっと登ってこられ、縦走してきた私たちと種池山荘前で遭遇したときは、本当にびっくりしました。

 この柏原新道は、登山口の扇沢出会いから尾根筋を登ると、その後およそ2時間の長いトラバースとなります。爺ヶ岳の南面を斜めにゆっくりと登るように、道が切られています。ただし、雪がなくなる6月ころまでは非常に危険で、通行禁止です。昭和50年・大学4年、今から37年前のこの時期、私は友人と3人でこの道をたどったことがあります。もちろん通行不能であるとは知りませんでした。

 最初は問題なかったのですが、高度が上がってトラバースになると、踏み跡も無くなり、雪も深く、これ以上進むのは無理と判断しました。当然引き返しました。けっこう疲れていたのでしょう、足元がフラフラしたのでしょう、一人が右の扇沢側に滑落しました。荷物を背負っており、頭が下に向いた状態だったので、訓練のような滑落停止の動作などできるわけがありません。50〜100メートルくらいの滑落と思います。ピッケルが手から離れたのですが、運よく勝手に雪面に突き刺さり、ピッケルバンドを手首に装着していたため、滑落は止まりました。あんまり思い出したくない光景です。

 このあたり、北から鹿島槍ヶ岳、冷池山荘、赤岩の頭、爺ヶ岳北峰・中峰・南峰と続き、その南に種池山荘があります。赤岩の頭から赤岩尾根、爺ヶ岳中峰から東尾根、南峰から南尾根が派生しています。この爺ヶ岳南尾根が、この時期最も容易に登ることのできるルートとされています。南尾根は、途中のジャンクションピークという場所で二手に別れ、本来の南尾根のとなりの尾根に登山ルートが開かれています。ただし、雪が消えると藪がうるさく、夏場は通行不可です。

 さて今回のメンバーは、私たちと何回かいっしょに山登りを経験した松久君です。3月ころ、ゴールデンウィークには、2人でそこそこの山登りに行きましょうということになりました。これまで、この時期に何度か登山をしていますが、ほとんどすべて天候に恵まれたこともあり、上記柏原新道での滑落以外は、危険な目に遭うことはありませんでした。晴天なら服装は夏山と変わりません。南に向いた雪面は柔らかく、アイゼンがないと歯が立たないということもありませんでした。

 八方尾根から唐松岳、合戦尾根から燕岳、三俣から常念岳、徳沢から蝶ヶ岳、槍沢から槍ヶ岳、涸沢から穂高岳、西穂山荘から西穂独標、はたまた南アルプスの鳳凰三山、谷川岳・・・、いろいろと楽しいところばっかりだったけれど、どうしようかしら。WEBページとにらめっこ、そしてこの爺ヶ岳南尾根から鹿島槍ヶ岳という案に到達したのです。今回の計画は、仕切り屋常盤にすべてを任せていただきました。

 まずは日程です。4月28日(土)の早朝出発、4月29日(日)に下山、これは動かすことができません。またマイカーを手放してから2年、マイカーの中で夜を過ごすという、かつての方法はとれません。夜行バスは嫌い、帰りにバスを使うと渋滞の危険が大きいです。こうして、行き帰りともJR利用に落ち着きました。また、費用はできれば2万円くらいでおさめることができるよう、いろいろと工夫しました。

 登山口の駅・信濃大町まで、普通は中央線で松本へ行き、大糸線に乗り換えと考えるでしょう。新宿5時18分発の中央線、高尾から松本行きの鈍行、さらに大糸線に乗り換えて、信濃大町10時49分着・4620円で行こうと思いました。7時のあずさでも同じ時刻に到着できるが、特急料金3020円が節約できる。しかし、信濃大町発のバスは11時15分であり、扇沢到着が11時55分です。これだと歩き始めが12時を過ぎてしまいます。タクシーを奮発することにして、11時半に歩き始めることしましょうか。これでもスタートがちょっと遅すぎます。

 そこで考えに考え抜いたあげく、新幹線で長野、そこから特急バスで扇沢という妙案が浮上しました。大宮6時50分発のあさまは8時05分に長野到着です。ちょうど8時30分のバスがあります。扇沢10時15分着、これなら10時半にスタートできます。料金も長野まで(自由席)6610円、バスが2500円ですから、合計9110円で、中央線鈍行・信濃大町からタクシー利用と大差ありません。

 また、山小屋の宿泊ですが、2食付9000円、朝食(弁当)800円、素泊まり6000円という設定。つまり夕食が2200円。ご飯ちょっと、味噌汁一杯、おかずは半分くらい残す私、アンリーズナブルです。またビール(350CC)550円、これも持ち込みとしました。自炊といっても、コンビニお握り、インスタント味噌汁、焼き鮭、タラコ、プチトマトといういつものセット。食器とガスストーブ、小さなガスカートリッジのみ。食料その他は私が、ビール(6本)は松久君にお願いしました。一人平均2キロくらいの重量負担増です。

 冷池山荘のホームページ。今年は春の訪れが遅く、4月になっても気温一けたが続いたそうです。19日の更新でも、我々レベルの登山者には難しそうな記述。しかし数年前、ゴールデンウィークの直前に暖かい雨が降って事なきを得たことがあるとのこと。今年も20日を過ぎたあたりから奇跡のように気温が上昇し、しかも水・木は雨だが、金曜の午後から回復、土曜快晴、日曜も晴れのち曇りという、こちらも奇跡のような予報となりました。これで、直前に「丹沢あたりにしようか」という、不本意な変更を余儀なくされることはなくなったのです。

 前々日に宿泊の予約電話。「10時半から登りはじめて、4時半から5時に到着予定です」。大町の柏原奥様、渋りました。「皆さん6時ころから登るのですよ。何かあったらどうするつもりですか?この時期には3時には小屋に入ってもらわないと」。でも、何しろこの日は奇跡の快晴、夕方までに天候が崩れる可能性はほとんどありません。「ジャンクションピークに2時、爺ヶ岳南峰に3時半までに到達できないようなら、必ず下ります。登りで遅くなっても、下りは二人とも得意なほうだから大丈夫です。下山した場合、電波の入るところで必ず電話を入れます」。こうして何とか宿泊をお許しいただいたのでした。

 大宮からの新幹線、ちゃんと座れました。長野からのバス、予定より10分くらい前に到着です。幸先よろしい。着いたらすぐに歩き出せるように、バスの中でスパッツを装着するなど、準備万端。扇沢(ターミナル)でトイレを借りたら、すぐに出発です。また登山計画書も先に作成しておき、登山口のポストに投函するだけ。

 登山道は、しばらくは夏道(柏原新道)を登ります。八ツ見ベンチという場所の少し先に、冬のルート(南尾根)入り口の看板があり、間違いようがありません。その先も、バリエーションルートとは言えないくらいきちんとしています。早朝登った人の踏み跡がはっきりしているし、要所要所に赤リボンがあります。多少の藪、木の根っこをまたぐといった煩わしさはありますが、特に危険な場所はありません。お昼ころなので雪は柔らかく、先行者もアイゼンを使った形跡はありません。もちろん私たちも「つぼ足」です。

 扇沢登山口が1350メートル、ジャンクションピークが2300メートル、爺ヶ岳南峰が2650メートル。うまくいけば、ジャンクションピークまで3本・3時間。そこから爺ヶ岳南峰まで1時間半と計算していました。爺ヶ岳南峰に3時なら、冷池小屋に4時半到着かな。ところがそうはいきません。背負った重量が15キロくらい、しかも冬用の重たい靴、根っこまたぎ、藪でひっかけ、重たい雪に足をとられる。

 1本40分で標高差250メートルがやっと(苦しくてそれ以上歩けない)。途中3回休んで、ジャンクションピーク到着が1時50分でした。退却お約束の10分前。ここから爺ヶ岳南峰まで350メートル、1時間くらい?とんでもない、リーダー(私です)が虫の息。1分歩いてはため息、これを3回続けると一呼吸休み、さらにそれを3回(都合9分)で呼吸整えの1分休み(わかりやすく10分で一単位)。さらにこれを3回で普通の休憩。ああ岳よ、どこまで私に試練を与えるのか?

 爺ヶ岳南峰到着は3時33分でした。退却の制限時刻を3分オーバーです。それでは予定通り下山したかと言えばそうはいかないですよね。爺ヶ岳中峰は巻き道を通り、北峰も過ぎ、冷池直前の最低鞍部には5時ころ到着です。「松久君、もう僕のことは良いから、僕をおいて先に行きなさい。そう言えば、ザックの中のビール、雪で冷やしといてね」悲壮な決意でパーティ分断。まあ、小屋まで150メートル、標高差30メートルだけれど。松久5分のところ、常盤リーダーは2分に1回の休憩をとって、10分でした。

 冷池小屋、これまでのいくつかの小屋の中でも、最優良小屋の印象です。スタッフは親切だし、館内は清潔だし。なんたって、けっこう広い自炊部屋が完備していて、そこにまでストーブが置かれていました。食事は?食べていないのでわかりません。この自炊部屋で、持参した例の夕食。到着時には疲労で、まったくビールを飲めない状態でしたが、だんだんと回復。ペロリと3本いただきました。8時就寝。

 翌朝は2時に目がさめ、3時に松久君を起こし、またもや味噌汁とコンビニお握り(おかずはない)という朝食。4時45分に、いよいよ鹿島槍にむかって出発。松久君に少しの荷物を背負ってもらい、こちらは空身。夜明けの北アルプス大パノラマを楽しみつつ、1時間半で鹿島槍ヶ岳到着。下りは早いよ、冷池山荘まで47分。

 帰りです。いやだなあ、またあのじじいに登り返さなければなりません。およそ250メートルの登りです。昨日ほどの疲労はないけれど、気分は重いです。爺ヶ岳南峰に10時前に着いて、サクサク下れば12時半のバスに乗れます。

 実際に南峰に着いたのは、10時を回っていました。しかもサクサク下れませんでした。足がもつれます。登りのときに気にならなかった、樹林の道での路面凍結で滑ります。八ツ見ベンチに着いたのが11時55分。扇沢出会いに12時半に下ることは可能ですが、そこから扇沢ターミナルまでの、きつい登り坂15分があるため、バス乗り遅れ確定です。いつも役立たずのAU携帯のスイッチを入れてみました。おお!何度目かの奇跡です。バリ3じゃないですか。当然タクシーを呼びます。扇沢出会い12時40分の約束。老体に鞭打ち、がんばって下りました。12時37分にタクシー乗車。途中の薬師の湯で汗を流し、次にやってくるバスで信濃大町へ。ここから松本・小淵沢・甲府と鈍行4本乗り継いで、高尾に7時半ころ到着。さらに中央特快、埼京線、東上線と乗り継いで、家に着いたのは9時を回っていました(信濃大町〜都内、鈍行で4620円)。この間、弁当2個、ビール4本、お茶2本購入。素直にあずさで帰ったほうが良かったのかも知れませんね。


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常盤