◆「谷川岳(地元では耳ふたつ)・西黒尾根」報告    

  常盤(豊)さんから自主ワンの報告を頂きましたので掲載いたします。

 

 ちょっと疲れたからといって、ちょこちょこ休んだり、あるいは逆に、意地をはって、無理に休まなかったりするのも禁物です。出発点から歩きだしてすぐは、調子もまだでてこないので、ゆっくり、速度をあげずに30分ほど歩いたのち、5分ほどの軽い休憩をとるようにするとよいでしょう。しかし、この30分に5分という歩行と休憩の割合も、決してはっきり定められたものではありません。南八ヶ岳のように山にとりつく前に長いすそ野の道がつづくところもあり、また、土合駅からすぐに始まる谷川岳の西黒尾根の急登など、山によってさまざまだからです。(以下略)

 これは横山厚夫さんの「登山読本」の一部です。昭和40年に発行されたものです。私が山登りを始め、技術や精神面でいろいろと感銘を受けた本です。ここに谷川岳の西黒尾根が登場します。「土合駅からすぐに始まる谷川岳の西黒尾根の急登」高校生だった私、ググッときました。「そういうところには行きたくないな」。で、一度も行かずに40年がたってしまいました。

 今年の山と渓谷8月号、「日本の名急登100」という特集でした。そして、そのトップがなんと西黒尾根でした。人によって考え方に違いがあるのは当然ですが、一番を与えられたからには、それなりの理由があるはずです。こりゃ行かなきゃならんです。ちなみに、北アルプスのブナタテ尾根、甲斐駒ケ岳黒戸尾根を三大名急登という位置づけとしていました(ブナタテ尾根は下っただけで、登ったことありません。黒戸尾根は登りも下りもあります。どちらの尾根もすばらしいです)。

 さて、谷川岳へのアプローチです。「なあに、上野を夜中に出る夜行列車に乗れば、3時ころ土合に着くよ。明け方から登れば8時ころには頂上さ」という常識でした。地下ホームから485段の階段が第一関門、ここでバテちゃうようではハイカー失格だね。しかし良く調べてみると、湯檜曽の先から入り、土合は地下を通り、土樽へと抜ける「新清水トンネル」が開通したのは、昭和42年の9月28日であります。我が会の主力昭和46年卒業組が入学し、夏合宿前のGWで谷川岳に行ったとしたら、地下駅開通の直前であり、行きも帰りも地上駅を利用したことになります。

 私が谷川岳を目指したのは、昭和50年の9月が最初でした。普通に明け方の土合に下り立ちましたが、外は大雨。とりあえず白毛門まで登り、駅に下りました。そのままステーションビバーク。翌日は夕方まで駅で様子を見ましたが、天候は回復せず、そのまま帰りました。帰りの電車でマエダ後輩と会ったことをうっすら覚えています。たしか厳剛新道を下ったとか。2回目は20年くらい前、残雪期、小雨でした。ロープウェイから熊穴沢避難小屋まで、斜面のトラバースが悪く、1時間ほどで引き返しました。3回目は家族4人で。暑さのせいなのか、子どもが気持ち悪いと言い出して、2時間ほどで引き返しました。そして多分その翌年、家族全員調子よく、4回目のアタックでついに初登頂に成功。なかなか難しい山です。おととしの残雪の谷川岳、楽しかったですね。ただし、すべて(初回を除く)ロープウェイ、天神尾根です。

 今回、まずは青春18切符です。11500円で5回の乗車が可能ですから、1回分2300円です。JRの普通列車のみ、一日中乗り降り可能。池袋から土合まで、そして日帰りですから帰りも有効です。これを使わないという手はありません。谷川岳登山を決めたのが8月18日。翌19日にヤフオクで「2回分5550円」で落札。20日に入金し、21日には送られてきました。送料80円を含めて、1回分2815円です。大黒屋で1回分4500円で販売されていますが、ずいぶんお得です。あまった1回分は、来週使います(正規に5回分買っても、使いようがありません。使った残りを売る手もありますが、ちょっと面倒だし、夏休み後半だと有効期限の問題で、価格が下がります)。

 群馬県の水上、新潟県の越後湯沢、この間に土合です。県境であり、人の往来も少ないためか、一日6本しか電車が止まりません。下り列車が最初に止まるのが8時34分です。当然、これが最初のターゲットになりました。しかし私が青春18切符で行くためには、池袋5時02分の埼京線に乗車しなければなりません。4時56分始発の上板橋からは、ほんの5分差で乗ることができません。東上線下板橋から、埼京線板橋まで歩くという奇策でもダメ。赤羽まで5キロを自転車で行くくらいしか方法がないのですが、結構アップダウンがあるので、ちょっとその気になれません。赤羽までタクシー、2000円という本末転倒の方法がありますが。

 しかたなく新幹線利用となります。東京6時32分発の「たにがわ401号」がぴったりです。このたにがわ号で高崎まで行き(大宮〜高崎3070円)、そこから上越線がまっさきに浮かんだ方法です。でも、これだと土合駅の階段を上らなければなりません。ちょっといやです。

 つぎに思いついたのが、高崎まで普通列車で行き、新幹線で越後湯沢(高崎〜越後湯沢3410円)、そこから上り列車で土合に戻る方法。たにがわ401号は越後湯沢に8時06分到着、8時13分発の上りに乗って、土合の地上駅に8時39分到着です。これはなかなかGoodですが、土合から土合口(ロープウェイの下の駅)までの20分歩行がなんだかいやです。

 パッとひらめきました。上毛高原です。たにがわ401号は7時53分に上毛高原に到着します。水上、谷川ロープウェイ方面のバスがあるはずです。調べてみると、ありました、ありました。8時00分上毛高原発、水上8時23分、土合8時38分、土合口(ロープウェイ下の駅)8時45分、これこそBest planです(高崎〜上毛高原1660円、バス1050円、合計2710円)。大宮から乗るのが常識でしょうが、朝早い普通列車で高崎まで行き、そこで新幹線を待ち構えます。

 上板橋5時13分《東上線》5時24分池袋 (トイレ借用)5時39分《埼京線》5時47分赤羽 5時54分《高崎線》7時27分高崎 7時37分《上越新幹線》7時53分上毛高原 8時00分《関越交通》8時45分土合口、我ながらすばらしい。上毛高原からこのバスに乗る客がどれほどいるのかと思っていました。それはそうとして、いつもの癖で小走りでバス停へ。バスに4番目に乗り込み、前のほうの席を確保しました。もたもたしている人が多く、席はぜんぶ埋まり、最終的には立ち客も含めて、完全に満員の状態でバスはスタートしました。

 今回の新兵器は、簡易型タイツ、凍らせた600ccのポカリスエットとミネラルウォーター(断熱の袋に入れる)、診療所で処方してもらった「フルメタ」という強力ステロイドの虫刺され薬。スズメバチ用の「エピペン」は予防用には処方できないとのことで、入手できませんでした。フルメタも未使用のまま残りました。

 登山用のタイツは、7〜8年前に購入して、数回使用したことがあります。膝の矯正が主であるため、パツンパツンにきつく、家内に払い下げてしまいました。これは12000円くらいしますが、昨今の山ガールたちをジロジロ観察すると、そんな高価なものを使っているようには見えません。高級品は、もっぱら財布の分厚い中高年専門のようです。暑い暑いと言われている西黒尾根ですから、半ズボンにしたいのですが、生っ白い私の足はなんともみっともない。山ガールと同じように、なんちゃって簡易タイプのほうが好都合なのです。ショップに行ってみます。やはりありました。矯正タイプほどきつくないファッションタイプのものが、およそ半値でありました。ブヨ対策にもなります。

 8時45分、定刻にバスが到着。駐車場のはしの方で一服し、8時57分スタートです。一の倉沢方面に向かい、車道を8分、ここに登山口の標識です。確かにいきなりの急登。土合口が740メートル、登山口が800メートル、一本目の目標は1140メートルの小ピークです(ここまで下りはまったくありません)。樹林の中、風はなく、汗が噴き出します。まあ、それは想定内のこと。急登ではありますが、まずまず登りやすい道で、1分で10メートルずつ登れます。この1分10メートルは、最も登りやすい道でこそ可能な速さです。

 土合口から50分少々、9時49分に小ピーク。少し溶けたポカリスエットをがぶ飲みし、ミネラルウォーターを継ぎ足します。さらに汗が吹き出ます。20メートルほど下り、ラクダの背を目指します。樹林帯の土とゴロ岩の道から、岩場まじりの道に変わり、少し風が出てきます。しかし日差しがきつくなり、暑さはこれまでと同じくらい。クサリに頼る10メートルくらいの岩場が数回、ラクダの背に到着です。ここまでも標高差400メートル、なんと38分です。自分が速いとかではなく、道が良いのです。ラクダの背付近は、左右が切り立った完全な尾根です。しばらく登り下りが続きます。

 なんちゃってファッションタイツですが、樹林帯では少し暑く感じました。しかし尾根に出て風が吹いてくると、気化熱で涼しく感じられます。使ったことのない方は、「あんな暑苦しそうなもの」と思われるかも知れませんが、まあまあです。西黒尾根下部は、湿っていてブヨがブンブン飛んでいるので、半ズボンは不可。普通の長ズボンとどちらが良いか、難しいところです。

 ラクダの背から少し下ると、谷川岳本峰にむかって最後の登りです。残り450メートル、疲れも出てきたので、2回に分けて登ることにします。手前にトマの耳、その先にオキの耳。多くの登山者が動いているのが見えます。

 蛇紋岩。白馬岳の八方尾根、尾瀬の至仏山、行ったことないが東北の早池峰山などでも有名ですが、ここ谷川岳もこのやっかいな岩でおおわれています。ザラザラしていて歩きやすいのですが、登山道のようにみんなが同じ場所を歩くと磨かれて、ツルツルになります。西黒尾根も何百万、何千万?の人が登っている為、メインの登山道はツルツルの鏡面状になっています。一枚岩を登るときには、結構気を使います。下ってくる初心者さん、顔面が引きつり、立って下れない人もいました。初心者は下ってはいけないルートのようです。

 11時半にザンゲ岩。尾根の左に瘤のような岩があります。登山道とは少し離れており、へええという感じ。ここで一休みして、最後の一本です。これまでの岩場が、急に笹原の道に変わりました。谷川岳を広く覆っている笹原です。ただし路面は石ころで、それほど歩きよいわけではありません。天神尾根と合流し、手前のピーク、トマノ耳(1963メートル)へ。天神尾根との合流から、登山者の数は数十倍か数百倍に増え、混雑しだします。

 会社で、谷川岳に明日行くんだと言ったところ、「家族で、天神平からリフトで天神山に登り、そこから下って登山道に出ました。少し下れば天神平に戻ります。もっと右のほうに本物の谷川岳があるのですね。そこに登るのですか」と聞かれました。ファミリーは、ほとんどリフトで天神山なのだそうです。「いやいや、ロープウェイには乗らず、下から歩くよ」との私の答えに、なんとも合点がいかない様子でした。

 トマノ耳は、三角点のところまで行き、そのまま通過です。ちょっと戻って、最高点のオキノ耳を目指します。ここの細い道は、混雑を超えて大渋滞。天神尾根でヘトヘトになった人たちが、ちょっと歩いては止まってしまいます。蛇紋岩のせいで、下りも怖いようです。チョロチョロすり抜けてオキノ耳(1971メートル)12時08分到着。スタートから3時間10分、ずいぶん気持ちの良い汗をかかせていただきました。

 ただし、こちらも人人人で、ゆっくり休むこともできません。昨今では、こんな場所でタバコも喫えません。で、頂上4分で下山開始です。肩の小屋12時30分、トイレを借りようと思いましたが、恐ろしい臭いであきらめました。下りは天神尾根なので、いつもの「どこでもトイレ」が通用しないことはわかっています。ロープウェイまでとにかく我慢。下りも当然渋滞です。登ってくる人を、下りの人間が待ってあげるのは山の常識です。しかし、明らかにすれ違えるのに、一休みしたいので止まってしまうのはいかがなものでしょうかねえ、後ろがつかえます。

 ドコドコ下り、熊穴沢避難小屋横の木陰で休憩。家を出発する時にカチカチに凍っていたポカリスエット。何回か継ぎ足しつつ、溶けた冷たい水を飲んできましたが、ここで氷がなくなりました。8時間もちました、これはおおいに使える手だと思います。

 ちょっとした登りがあり、その先で道が分岐。天神山までリフトで行き、下ってきた道との合流です。またまた家族連れが増えてきます。そして天神平には13時38分に到着しました。冷えたコーラがおいしいです。そのままゴンドラに乗車し、土合口に13時50分過ぎに到着しました。

 当初の計画は、土合口15時到着。元気なら徒歩15分で土合へ。元気でなかったら、15時13分のバスに乗車。いずれにしても土合15時31分の電車に乗車する予定でした。多少早めに下山しても、一日6本の土合ですから、前の電車に乗れるはずありません。調べておきませんでした(あとで調べたら、一本前は3時間前の12時26分)。

 土合口でバスの時刻を確認します。なんと14時03分発があるではありませんか。水上まで30分くらいです。水上からなら1時間に一本くらい電車があるはずです。で、顔を洗っただけでバスに乗車。水上到着14時半。やはりありました、14時45分発の高崎行きです。帰りもドンピシャリでした。ただし、おかげでと言うか、タイツを脱ぐひまがありません。靴を脱ぎ、靴下も脱がないと、タイツは脱げません。きれいとは言えない駅のトイレで、あわててゴソゴソするのは危険が伴います。と言うわけで、お腹パンパンのまま家まで我慢することになりました。まあ、これがタイツの欠点と言えるかと思います。

 高崎から、高崎線1時間半で赤羽、そこから埼京線、東上線で上板橋18時です。たいへん充実した一日となりました。出発時に日焼け止めクリームを入念に塗って行ったのですが、歩き出し1時間でほとんど流れ落ちてしまいました。むくんで、ヒリヒリした肌が、強烈な日差しだった証拠です。


写真はこちらです。
  以 上