◆挽夏、わたスキの旅    

  常盤(豊)さんから自主ワンの報告を頂きましたので掲載いたします。

 

 先週は、谷川岳・西黒尾根という、非常に直情的な登山でした。土合駅からまっしぐら、吹き出る汗が爽快な一日でした。さて、青春18切符、あと一回分残っています。この夏のフィナーレをどこで飾りましょうか。

 当初は、飯田線完全制覇を目論んでいました。上板橋始発乗車、山手線を新大久保で下車し、徒歩で大久保まで(ダイヤ改正で、新宿で乗り換えると間に合わなくなった)、あとは、高尾、上諏訪、豊橋、浜松、熱海、国府津、池袋と乗り換えて、上板橋に23時31分到着という、夢のようにすばらしい計画。

 しかしこれは、上諏訪9時19分の豊橋行き普通列車に乗り、豊橋16時16分着までの7時間を電車の中で過ごす。さらにここから気力を振り絞って、東海道本線普通列車乗り継ぎで帰るという、修行僧的な計画。ううん、ちょっと自信がない。

 先日の谷川岳の数日前、「右のほうに本物の谷川岳があるのですね」と言った会社の後輩、その週末(私が西黒尾根で大汗をかいていたころ)は、家族で万座に行っていたのだそうです。「谷川岳は暑いですが、万座は涼しかったですよ」だそうです。ふうむ、万座かあ。

 万座、草津、志賀高原、さらに苗場山、これらは非常に近いのですね。かつて堤○明さんが全盛・大魔王でいらしたころ、その支配下のグループが、これらをすべてロープウェイで結び、大山岳スキーリゾートを作る計画があったとか(外野が勝手に作ったヨタ話と思いますが)、バブルのころの夢物語です。

 日も暮れかかっているのに、原田知世ちゃん、無謀にもひとりで志賀高原から万座に向かうんです。転倒した知世ちゃんに追いついた三上博史、「内足の癖、直せって言っただろ」のせりふには感動させられました。そしてラスト、「万座のあかりだ」なのです。目じりから汗が流れます。高原の「ワタスゲ」ではなく、「私をスキーにつれてって」の「わたスキ」であります。もちろん、志賀高原から万座が正統なのですが、今回は日帰りであるため、万座から草津で我慢します。志賀高原と草津、たいして違わないはずですが、ネーミングひとつでずいぶん田舎臭く感じられます。

 吾妻線の長野原草津口、ここからバス30分北上したところが草津温泉。草津温泉は標高1150メートルほどですが、志賀草津道路またはロープウェイで、2000メートル超の高地まで運んでもらえます。志賀草津道路は、白根山登山口からしばらくで、万座からの道と合流します。

 吾妻線のもう少し先、万座・鹿沢口から北上し、標高1700メートルのところにあるのが万座温泉です。さらにその先、白根山大噴火口のすぐ裏をとおり、山田峠を経て、渋峠までくると、長野県との県境です。目の前に横手山、ここから先が志賀高原であり、いくつものスキー場を通って、蓮池へと下ります。蓮池を直進すると湯田中、そして長野。右折すれば奥志賀から雑魚川林道をへて秋山郷に向かいます。この秋山郷は、苗場山の裏(西)という位置づけです。

 無雪期であれば、志賀高原、万座、草津は、白根火口・渋峠あたりを中心に自由に往来可能です。山岳ドライブのメッカと言えるかもしれません。当の私も、かつてマイカーオーナーであったとき、何度も訪れています。「志賀−万座って、直線だと2キロなんですよね」。なお今回は夏なので、「凍ってるね」の名セリフを使う場面はありませんでした、残念。

 いつものとおり、上板橋4時56分の始発に乗車。池袋の乗換時間は5分あるので問題なし。しかし赤羽での高崎線乗換時間はたった1分であり、ちょっと心配でした。これをクリアし、写真をパチリ。ゲッ、「カードがありません、記録できません」だと。しまった、先週パソコンに取り込んだとき、取り出したままになっていました。しかたない、高崎線で吾妻線に乗り換えるのに30分ほどあるので、コンビニで緊急購入です。2ギガ1080円、なにせ貧乏旅行なので結構重いです。

 この吾妻線に乗車している人の多くが、青春18切符利用の鉄っちゃんたち。川原湯温泉駅での停車時間など、駅から外に出て、例の八ツ場ダム橋脚や、駅舎の写真を撮影しています。かく言うワタクシもちょこっとパチリ。

 万座・鹿沢駅でのバス待ち合わせ時間が7分、絶妙です。経営しているのは西武系列の西武高原バス。この西武系列、バブルのころの栄華も今は昔。なんとなく元気がなく、田舎のバスはオンボロバスだ、の雰囲気です。しかも、万座温泉まで45分なのに1310円と、なんともお高い。

 で、万座プリンスホテル前に10時到着です。車道を少し戻り、いよいよ山道に入ります。まず目指すのは山田峠。山肌は硫化水素ガスのためか、ところどころ白っ茶けています。各所に警告板があり、注意を促していますが、吸った瞬間あの世行きの場合もあり、気分は下々(上々の反対)です。

 さらに、「クマに注意」の看板です。奥多摩あたり、そこらの山で、クマよけの鈴をチリンチリンさせている人がいます。ひどい人はラジオを大音量で鳴らしています。イヤです。が、今回、こんな酔狂な道を歩いているのは自分ひとり。しかも笹ヤブと樹木で、いつクマと遭遇しないとも限らない感じ。手をパチパチ(拍手の要領)させながら、わざとゼイゼイ言いながら歩きます。歩き出し曇り、途中から小雨、しばらくでシャアシャアの雨。今回の雨具は傘のみです。ユニクロの500円くらいのちゃちな代物。でもこれしかないので使います。寒くはないが、ズボンのすそが濡れてきます。

 歩き出して40分ほど、前方に車道が見えてきました。草津、万座の道が合流して、志賀高原方面へと向かうハイウェイです。車道に出て数分で山田峠、避難小屋があります。道路に1250とか1240とかの標識があります。定期的に出てきて、だんだんと数字が減っていきます。たぶん距離を表しているのでしょう。こういう時、私は必ず歩測をします。だいたい30歩で数字がひとつ減ります。一歩が70センチくらいだから、0.7メートル×30歩で21メートル≒20メートルってことね。山田峠から渋峠まで3キロくらいなので、数字が150くらい減るとめでたく到着ね。まあ、そのとおりでありました。計算高い自分が誇らしい。

 途中、2172メートルの我が国の国道最高点を通り、渋峠到着が11時半すぎ。ドライブイン兼土産屋があり、横手山に登るリフトが動いています。天気も悪いし、横手山はパス。芳ヶ平へ下る小さな看板を見つけ、一休みです。

 渋峠から芳ヶ平まで、コースタイムによっては1時間だったり、40分だったりします。そんじゃあ30分かな。そうはいきませんでした。溝に水が流れている泥んこ部分、岩がゴツゴツして歩きにくい部分、整備された木道なのに、コケが生えていてツルツル滑る部分、50分かかりました。しかもずっと足元注意であり、楽しい道ではありません。クマも怖いです。

 芳ヶ平です。草原あり、小川あり、高山性植物の咲き誇る別天地です。そこに小さな山小屋があります。ここ芳ヶ平ヒュッテは、オーナーさんのお人柄か、いつもジャズが流れ、本格的パスタが売りなのだそうです。また、かわいい犬たちがお客様をお迎えしてくれる。ゆっくりとコーヒーをいただいたり、ワイングラスを傾けるのも良いですね。

 だそうですよ。タバコ喫うとこないかなあ、最近どこでも禁止だし。ちょっと腹が減ったぞ、最後のおにぎりでも食べようかな。ベンチも濡れているし、ヤンキー座りで一休み。そうそう、花です、リンドウです、きれいです。さあ、元気出して下ります。草津まで6キロくらい。

 ここからはわりと良い道です。1時間半くらいで下れそうです。途中、花敷温泉方面への道を分け、標高差700メートルくらい、ひたすらの下りです。遠くに草津温泉の町並みが見えたりします。草津まであと3キロくらいのところから、林道のようになり、さらにその下で完全に車道です。これならもうすぐ、と思ったら、道の真ん中に亀裂が入り、崩壊したところもありました。

 パコーンという音と、話し声。草津高原ゴルフ場の脇を通りますが、森のマスクで不快感はありません。いったん道路に出て、標識に沿ってもう一度山道へ。谷沢川を渡って20メートルほど登り返します。そこは草津の別荘地帯、古くからの会社の保養所と、分譲巨大マンションが立ち並びます。ここで道を失いました。標識がひどいんです。

 草津は、湯畑を中心とした昔ながらの温泉街と、それを取り囲む保養所、新しいホテル・マンション地帯に分かれています。なお、日本のペンション発祥の地はこの草津であり、温泉外周のベルツ通り(草津温泉をひろめたベルツ博士にちなむ)沿いにいくつもあります。しかし清里などと同じように、「中学生のラブホ」的存在になったと揶揄する人もいるくらい、最近はその存在感が薄れてきている感があります。

 私が目指しているのは、草津バスターミナル。これは温泉街の中心、湯畑のそばにあることはわかっています。右のほうに天狗山スキー場が見えているので、斜め右方向に行けば良いわけです。しかし、具体的な道標がなく、道が曲がりくねっています。右斜め方向だった道が左方向に向きを変え、マンションの先で行き止まりになったりします。

 時刻は2時20分、予定のバスは3時20分で1時間ほどあります。それでも坂道を行ったり来たりで汗が出ます。ようやくそのベルツ通り、ここで街中のマップにようやく出会うことができました。湯畑到着が2時40分、白旗の湯でひとっ風呂と思いましたが、まだ一般入浴の時間ではありません。大きな立ちより湯に入る時間もないので、今回は草津なのに入浴なしです。画竜点睛を欠くとはこのことでしょうか。

 JRバスは30分で長野原草津口へ。こちらは普通に安いです。万座の半額670円です。しかし、この駅のまわりには、なんにもないです。コンビニのお惣菜あたりでビールと思っていましたが、結局はキオスクで、タラのおつまみと柿ピーしか手に入りませんでした。温泉まんじゅうでは、つまみになりません。こうして今年の挽夏、わたスキの旅も終わりを告げたのでした。一ヶ月、ほとんど雨の降らなかった夏でした。


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  以 上