◆金時(金髪ではない)娘に怒られた話    

  常盤(豊)さんから2月の山行の御報告を頂きましたので掲載いたします。

 

 昭和45年、我が家にもマイカーがやってきました。中古のパブリカです。私は車にそれほどの憧れはなかったのですが、我が父親は、それこそ清水の舞台から飛び降りるつもりで、マイカーを手に入れたのでしょう。冬はヒーターがあるし、夏は窓を開ければ涼しい風が入ってきます。次は新車のカローラ、いつかはクラウンだったはずですが、コロナまで到達したところで鬼籍に入ってしまいました。

 さて、世を席巻する山ガールたち。スカートにタイツ、ユニクロのダウンジャケットを身にまとい、首にはオリンパスのミラーレス。20年前の中高年登山者方は、ミレーのザックにウエストポーチ、杖型ストックが定番でした。ずいぶんカラフルになったものですね。

 山ガールの選ぶ山は、何と言っても高尾山。細かくコースまで立ち入れば、稲荷山尾根でありましょうか。頂上から一号路を下り、とろろ蕎麦を食べて帰ります。そしてそして、いつかは富士山であります。いつかと言うより、今年の夏の目標と言い換えるべきかも知れません。槍ヶ岳、穂高岳、白馬岳、そんな屁みたいな山じゃダメ!日本一のお山、富士山こそが唯一無二の目標です。

 高尾山、無事制覇しました。とろろ蕎麦も食べたし、ついでに足湯にも浸かっちゃいました。さあ、第二ステップです。どこ行く?高尾山と富士山の間にあるちょいと骨のある山。候補に登るのは、相模の大山だったり、奥多摩の御岳山だったり、筑波山も良いですね。そうだ、箱根の金時山ってどうよ?

 まず、アクセスが良いわよね。ロマンスカーでピューって行けちゃう。熱海なんかと違って、温泉は良いし、雰囲気もなんかセレブっぽい(会社の保養所と、団体旅行の違いだと思うのですが)。下山したら、小田原で相模湾の海の幸づくし。で、金時山には名物の金時娘さんがいるので、ツーショットの記念写真も良いかも!こないだ、日経新聞にも掲載されていたと、会社のおじさんが言ってたっけ。

 上記、OL山ガールと同じような会話が、葉隠例会でなされ、いざ金時山へGOとなったのでありました。2月16日(土)、降雪の翌日、小田原駅東口に朝9時前集合です。佐藤先輩、阿部先輩、水堀先輩、平石先輩、三木先輩、斎藤先輩ご夫妻、和田先輩、そう、私が最若輩であります。

 東京はパリパリの晴天でしたが、相模の平野を西下するにしたがって上空に雲。小田原駅前はちょっぴり小雨でした。まあ、問題なし。バス1時間で仙石です。でもね、バス料金970円はなんともお高い。バス停から車道5分、コンビニあり、ちゃんとしたトイレあり、矢倉沢峠経由、金時山への登山口です。いきなり商船三井とカネカの保養所。さすがは大会社ですね。

 歩き出して数分、舗装道路から山道になったとたん、グッチョングッチョン。ここでAB先輩から、「常盤さんキレイね」のお声。顔のことかと思ったら、ズボンの内側が汚れてないことだそうです。「へへ、歩くの上手だもん」なんて答えてはなりませぬ。どうしてって、ならぬものはならぬのです。「いや、○○股なだけですよ」と冷静にお答えします。「あら、STUさんも全然汚れてない」。そうか、STUさんも○○股ってことになってしまう、言葉は慎重に選ばねばなりませぬ。

 矢倉沢峠からは快適(足元は相変わらず)な稜線を歩き、次は雪が踏み固められたツルツルの道に変わり、まもなく頂上。そこで、へんなおじさんから大声で声をかけられました。かかわり合いたくないので、そっぽを向きます。オクターブの高いお声、あれれ、松岡先輩ではありませんか。先輩、集合時刻が30分遅くなったことを知らずに、お一人で登っていたのでした。それにしても、約束(当初)の時刻に小田原に誰もいない、バスも一人。よくぞお一人で登って下さいました。寂しかったでしょうね。

 金時山の頂上には金太郎茶屋と金時茶屋の二つがあります。もちろんお目当ては金時娘の金時茶屋です。茶屋の前にはテーブルと椅子が用意されていますが、「営業用・ガスストーブ使用禁止」といった注意書きが。まあ、ここで休ませていただきましょう。今回はガスストーブで湯を沸かす計画もないし、ホッと一息。しばらくすると、短パン姿のおかしな親父が茶屋から出てきて、ショバ代を請求します。注意書きにはないけれど、一人200円払うんですって、ええっ!それってちょっとおかしくない?

 HRIS先輩、WD先輩、私など、すばやく退避します。そんな無体な請求、意地でも応じられません。MK先輩とSITU先輩が、金時娘を見に行きます。戸口か窓から奥をのぞいたらしいのですが、いきなりマイクで「のぞいている人、何か用があるんですか」60年前に娘さんだった金時婆さんから叱責の声でした。客商売であるはずなのに、なんとも失礼なお言葉ですね。商売ご繁盛は結構ですが、引退時期もお考えになった方がよろしいのではないかと、余計な心配をしたくなります。

 ここからは乙女峠までの稜線歩きです。20〜50メートルくらいの小さな瘤を越えていきます。無雪期に歩いた印象は、ガラガラのつまらない道を40分でした。ところが今回は、きわどい雪稜を注意深く進むという、まったくの別物。アイゼンがないと難しいレベルでした。滑っても大怪我はないと思いますが、お尻に青痣とか、ひねって捻挫くらいは十分あります。私たちのパーティでも、ひとり滑落がありました。5メートルくらいで停止したので、特に怪我もありませんでした。「おとうさん、滑っちゃだめじゃない」こんな声が聞こえた気がしますが、誰が滑ったかは内緒です。

 標高が下がって、再び泥んこの道になり、乙女峠から国道138号線まで下りれば、今回の山行も終盤戦です。この国道、小田原・箱根と御殿場を結ぶ主要な道路です。車がビュンビュン走ります。決して気持ちの良い道ではありません。さっき降りた仙石バス停までおよそ20分、水堀先輩と車の話などしながら歩きました。仙石から箱根湯本まで、道路の渋滞もなく、さらに箱根登山鉄道で小田原へ。駅前の居酒屋ふじ丸で、田尻先輩と田中後輩を交えて(ここで最若年を免れました)大宴会となり、今回の山行も無事終了となりました。


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  以 上