◆錦秋を愛でる   

  常盤(豊)さんから自主ワンの御報告を頂きましたので掲載いたします。

 

 ワタクシの趣味は、ケチ(節約)とマゾ登山であります。10月と言えば、紅葉ですが、これに適う計画(ケチ・マゾ・紅葉)を、以前よりずっと練ってまいりました。

 紅葉と言えば、何と言っても涸沢でしょう。9月末か10月初旬、運がよければ、白(初冠雪)、赤(紅葉)、緑(青葉)の三段紅葉が拝めるそうです。しかし、山登り歴数十年(=紅葉の季節、数十回)、この時期に涸沢に行くチャンスはありません。涸沢ヒュッテか涸沢小屋に泊まらざるを得ず、穂高に登らずに帰るのは惜しい気がします。涸沢から穂高に登って、そのまま下山、帰京はちょっと厳しいように思えます。

 つぎは日光です。昭和48年、2年生の秋合宿が日光でした。私は、ゼミの関係で登山には参加できませんでしたが、集中のみに出向きました。10月下旬、中禅寺湖周辺の紅葉の見事さは、筆舌に尽くしがたいものでした。生涯、後にも先にもない素晴らしい紅葉でした。

 傑作なのは、11月初旬の高尾山です。数年前、晴天の土曜日、陣馬山から縦走し、お昼ころに高尾山に着いたことがあります。景信山あたりはけっこうな賑わい、小仏峠・城山ではまずまずでしたが、高尾山手前の紅葉台では道の両側、座る場所がありません。最後の階段を登り切って頂上に出ると、酒と、弁当のにおいが充満していました。頂上の広場、人・人・人で、ラッシュアワーの電車並みの混雑でした。縁の石垣から転げ落ちて、遭難する人が出そうなほど。皆さん、立ったまま飲酒されていた印象です。まあ、高尾山の紅葉なんて、人工のモミジがチョコチョコなのに。もちろん下山は、豊島園のプールのようでした。

 さて、10月の3連休です。とにかく日帰りで紅葉狩りと決めていました。日光だと、ちょっと早すぎるかしら。ところが数日前の読売新聞に、那須の紅葉の記事、写真がありました。見ごろは今週末までとのこと。こりゃあいかん、すぐさま出動です。電車だと、日光駅に到着するのが8時10分、これ以上早く着くことはできません。中禅寺湖方面のバスは、8時30分発でちょうど良いのですが、もうこのころは渋滞真っ盛りで、いろは坂通過に1時間以上かかるようです。中禅寺湖畔まで片道3時間、ちょいと男体山は無理なようです。バスの渋滞をひたすら我慢する、それもマゾッ気があって、なかなかの冒険ではありますが。

 私は、東武鉄道沿線に住んでいますが、東武の二大看板は、日光と谷川岳であり、紅葉に染まった谷川岳のポスターなども良く目にします。そうか、谷川岳か、これは結構な話です。ただし、天神平のロープウェイは、恐ろしい混雑となりそうです。という経緯で、谷川岳、できるだけロープウェイを使わない、日帰り、を実行することになりました。決めたのが前日なので、もちろん一人です。

 行き帰り、ともに鈍行、これが基本です。赤羽5時23分の高崎行きに乗れれば、水上で乗り換えて、土合に8時33分に到着です。私の最寄り駅始発が4時56分であり、Yahooの「路線」で調べると、これに乗ることが出来ない結果が出ます。9時56分到着です。土合は一日に5本しか止まる列車がなく、これがこの日の2本目です。しかしこうです。池袋到着5時07分、埼京線5時13分発乗車、これはまったく問題ありません。赤羽着5時22分、ここで少々ダッシュすれば、5時23分発の高崎行きに乗車可能です。そして、そのとおり楽勝で乗ることができました。なお、Suicaは水上までなので、土合下車の場合、池袋での乗車記録があると、あとで面倒なことになります。池袋での乗換時間は十分あるので、切符を購入します。念のため(なにが?)、130円の切符です。土合で精算しましょう。

 高崎で15分、水上で11分、絶妙な乗換時間で、土合に予定通り8時33分到着です。例の486段の階段を登り、8時40分過ぎに地上に出ます。なお、上毛高原発の関越交通のバスがあり、水上ならこれに乗車できます。しかしこのバス、土合駅前通過が8時38分であり、タッチの差で乗車できません。ロープウェイ駅まで20分歩くことを余儀なくされます。それにしても土合駅、無人駅になってしまい、待合室で火器を使う人たちがいるなど、荒れた雰囲気です。

 東京は一日中晴れ、ただし風が強い、冬型の気圧配置です。水上あたりから上空に怪しい雲が出て、土合は雲量50パーセントくらい。ちょっと嫌な感じです。今日のコースは、西黒尾根、大好きな道です。谷川岳頂上から、すなおに天神尾根、ロープウェイで下るか、北方に縦走するか、登ってから考えることにします。しかし、茂倉岳から土樽に下山する場合、土樽15時21分発の電車に乗らないと、最終の18時11分まで、3時間近く電車がありません。トマの耳から土樽までのコースタイムが4時間20分ですから、遅くとも12時前に頂上出発でないと、終電となってしまいます。土樽駅、もともと信号場だった駅で、乗降客などほとんどなく、駅前で一杯なんて望むべくもありません。

 土合駅8時51分発、駅前の国道を進みます。上越線の踏切を過ぎると、マイカーで渋滞しています。ロープウェイの駐車場に入る車です。歩き始めて15分、ロープウェイまであと5分というところに第2駐車場がありますが、ここを過ぎるちょうどその時に、ここがオープンされました。つまり、マイカーの場合、8時半ころまでに到着すれば、そこそこスムーズに駐車できるらしい。

 登山指導センターで登山者カードに記入します。直前に、ヤマケイ文庫「滑落遭難」(羽根田治著)という本を読んで、カードの大切さが良くわかったからです。なにせ一人だし。登山口9時22分、そのまま通過です。良くわかってはいますが、いきなりの急登。前夜、降雨があったらしく、泥の道がヌルヌル滑ります。それでも、たいそう登りやすい道で、しかも座れるような場所もなく、休まずに登ります。最初の休憩は10時13分、1310メートル地点でした。土合駅から1時間20分ほど、650メートルも登ってしまいました。生涯最長かもしれません。

 このすぐあとから岩場です。鎖に頼るような場所もありますが、楽しい登りが続きます。ラクダの背を越えて、ザンゲ岩付近で2度目の休憩、10時13分です。標高1850メートルですから、このまま行けば10分で肩の小屋、さらに10分で手前のピーク・トマの耳なのですが、ちょっと空腹を覚えました。

 天神尾根からの人で、急に混雑する頂上付近。気温が下がり、5℃くらいです。私も、半そでの上に長そでシャツを羽織りました。でもほとんどの人が、さらにジャケットを着ています。鼻水を流しながら、作ったラーメンを食べている人が少なくありません。トマの耳、11時56分着。狭い頂上に人があふれています。標識を撮影したらすぐに出発です。少し下って登り返し、12時06分、オキの耳に到着。こちらの混雑はそれほどでもありません。それでも長居する気はおきません。自分の姿を撮影してもらったら、すぐ出発です。天神尾根は、登りの人とのすれ違いが煩わしそうだし、ロープウェイの混雑が怖いです。一ノ倉岳、茂倉岳方面に向かいます。

 ここから一ノ倉岳までは、右下に一ノ倉沢を見ながら歩きます。ただ登山道は、左の万太郎谷側に作られています。地図には、「一ノ倉沢側に転落注意」とありますが、そんな心配はほとんどありません。しかし、この左の沢こそ転落注意です。道から転落すれば、まず助かりそうもありません。岩も滑りやすく、とてもやっかいな道です。

 12時51分、一ノ倉岳到着。危険地帯は無事終了です。このあとは、茂倉岳まで、ノビノビした稜線歩きです(と言っても20分ばかり)。気分が良いかと言うと、そうでもありません。雲がだんだんと下がってきます。振り向けば、谷川岳が雲に覆われつつあります。気温は0℃くらい、風も強まっています。寒さでちょっと頭痛気味。しかたない、雨具を着ることにしました。フードもかぶります。ああ、あったかい、極楽極楽。あとは氷雨さえ降らなければ良しとしましょう。

 茂倉岳13時13分着。いよいよ下りです。ここで、土樽15時21分発の列車は、きっぱりとあきらめです。コースタイム2時間55分、残された時間2時間少々。しかも滑りやすい道、さらに初めて。ヌルヌルの道に足をとられ、木の根っこをまたいだりしながらノロノロと下ります。土合駅前の標高が、663メートルであることは事前に調べてありました。土樽はトンネルを出てすぐなので、同じくらいであろうことは想像できます。茂倉岳1977メートルから、土樽650メートルくらい(実際は600メートルでした)までの1300メートル、なんで3時間もかかるのかしら?簡単でした、道が悪いのです。一筋縄ではいきません。

 14時半ころ、標高1300メートル付近。うしろで物音がします。スワ、熊か!、ちょっと警戒しましたが、人でした。私を追い抜こうとしています。くそう、こんな屈辱は今回初めて。「15時21分の電車に乗るんだよ」こう言い残して、風のように過ぎていきました。間に合ったかどうかは定かではありません。歩きにくかった登山道ですが、標高1200メートルくらいから良い道になり、はかどるようになりました。

 15時過ぎ、下に駐車場が見えてきました。ふう、終了近し。駐車場から駅までは、車道歩き20分だそうで、例の列車には間に合いそうもないし、「もうどうでもええけんね」です。実は越後湯沢から新幹線で帰るという、禁断のオプションがあるのです。登山道の終了直前、「アサヒタクシー、越後湯沢まで3800円、20分」電話番号も書かれています。そうかそうか、3800円とは10キロね。それじゃあ、半分くらい歩いちゃいましょう。だって、まだ3時過ぎだし。

 土樽駅入口15時35分通過、後半意外にスピードが出ました。あとは左に魚野川を眺めながら車道歩きです。下流に向っているのだから、基本的に下りです。人も車もまったく通りません。身体は疲れているけれど、気分の高揚感はあります、サクサクサクサク。16時半、越後中里、ここでタクシーを呼びます。越後中里スキー場、かつてはプリンスホテル系列で、浮名を流したこともありましたが、今はひっそりしています(シーズン前だからかしら)。ううむ、浮き沈みの激しさに感無量でありました。

 タクシー10分で越後湯沢です。みやげ屋、飲食店など、大変充実しています。1年半後、北陸新幹線の開業で、ほくほく線はただのローカル線に成り下がり、今の繁栄もつかの間のものとなってしまうのか。ツラツラ考えつつ、ビールとつまみを買います。17時01分の「とき」に間に合いますが、17時06分の「たにがわ」ならガラガラです。迷う必要ありません。当然後者です。思惑通り、乗車時に私の車両に客は2〜3人しかいません。少しずつ増えてきましたが、大宮の時点で10人くらいでした。しかしこの車両、いかんです。2階の席は、両側3人掛け(6人)です。もちろん隣りに誰か座ったわけではありませんが、とても貧乏な感じです。しかもリクライニングしないのです。清水の舞台から飛び降りるつもりで、新幹線に乗ったのに、もう少し客の気持ちを忖度して!!、まあ、通勤電車だからしょうがないですね。それにしても新幹線、5時過ぎに越後湯沢で、7時過ぎに家に着いてしまうなんて、こんな世界があることを、つい最近まで知らなかったワタクシです。こうして秋の一日はめでたく終了したのでした。


写真はこちらです。

  以 上