◆厳冬期 赤城山   

  常盤(豊)さんから自主ワンの御報告を頂きましたので掲載いたします。

 

日程:平成26年2月1日(土) 

メンバー:常盤(L)、相原


 現在位置は確認できた。目的地までそれほど遠くないことはわかっている。しかしこの平原は、いったいどうなっているのか。目の前には川が流れている。地図によると、その川を渡り、200メートルほど進んだら右斜め方向に進み、さらに200メートルで目的地に到着できるはずだ。ここから慎重に歩測で前進し、ほぼその目的地に到着した模様だ。しかしどうしても目的地が発見できない。同行のA君が「誰かに聞いてきましょうか」と提案する。「バカ野郎、こんな人っ子一人いない平原で、誰を頼れって言うんだ。頼れるのは、自分たちだけなんだ」とリーダーの私。予定の時刻が迫ってくる。食料も残り少ないし、のどの渇きを癒す水もほとんど残っていない。「ああ、事前の調査が不足だった」しかしこんなところで反省しても、完全に手遅れだ。反省は反省会でしろ。

 今回は「雪があり、比較的難しくない、冬山の入門コース」として、赤城山に登ることにしました。前橋からバスで標高1360メートルほどの大沼湖畔まで登り、赤城山の最高峰・黒檜山を目指します。ここから稜線を縦走して駒ケ岳に至り、登山口近くに下るラウンドコースです。

 JR前橋駅前から赤城山ビジターセンター行きのバスは、冬期でも一日3便出ています(土・休日のみ)。始発は8時45分、1時間少々で山上まで運んでくれます。第2便の下りは、ビジターセンター13時45分発、第3便の下りが16時40分発です。始発バスを利用すれば10時半ころには歩き出すことが出来ます。全行程を3時間ほどで踏破し、13時45分のバスで帰りたいものです。万一これを逃すと、2時間以上待たされることになってしまいます。先日の奥多摩バス停で、低体温症で危なかった経験があり、丹沢で、下山後の反省会での飲みすぎで脱水症状を起こした私です。バス待ちが、長すぎるのは危険です。また、ビールを飲んだ後のバス1時間乗車というのも、大変なリスク要因です。

 大宮7時00分発「快速シーハイル上越号」という、結構な電車があります。特急券なしで乗車でき、自由席なら乗車券だけで、また510円で指定を取ることも出来ます。好評で、毎年運行されているらしく、数年前は183系という、あずさ型の列車が運行されていたようです。しかし今年は185系の列車に置き換えられていました。これは旧国鉄時代末期に、踊り子号として登場した列車で、通勤列車としても使用されていました。通勤時にこの車両に乗ったことのある私には、まったく有難みがありません。確かにシートなどは取り替えられて、リニューアルされてはいますが、なあんだ、あのチープな特急か、という印象です。

 大宮から1時間少々で高崎、そしてつぎの新前橋で両毛線に乗り換えです。駅に到着し、さて降りようとしましたが、ドアが開きません。寒冷地では手動で開ける車両が多いので、えいとやってみましたがビクともしません。発車ベルが鳴り出したので、あわてて隣りの車両のドアから脱出しました。やっぱりチープな特急でした。ドア故障です。こんなことって初めて、ちょっと胸がドキドキしました。

 前橋北口駅前、バスターミナル以外、はっきり言って、なんにもありません。かつてイトーヨーカ堂があったビルが、現在「エキータ」と言う名前で営業しているくらいです。エキータ…駅北です。なお、私の住む町の駅前は、カミータというイタリア語のようなしゃれたニックネームがつけられています。ほんとは、ただの上板橋商店街ですけどね。

 8時40分ころ、赤城山へと運んでくれるバスがやってきます。2人掛けのいすに1人ずつ座ってほぼ満員、という乗車状況でゆったりです。しかし、途中の富士見温泉から20人くらいの団体が乗り込んできて、満席、座れない人が10数人という満員状態になりました。それにしても乗り心地の悪い、ガタガタゆれるバスです。「相原さん、これは何十年も前のバスなのかねえ?」という私の質問に、「いや、板バネだからじゃないでしょうか。山岳路線では、空気バネは具合が悪いのですよ」との答え。なるほど、そういうものなのか。

 あかぎ広場前、というバス停で下車し、いよいよ出発準備です。私は、安っぽいシンサレートの帽子、イトーヨーカ堂製の長そで下着、同じくズボン下、同じくポイントで買ったカシミヤのセーター、日本一軍手、夏用のズボンです。念のためサングラスをかけて、スパッツも着けます。ファーストダウンという、綿とフェザーがほとんどの、これまたポイントで買ったなんちゃってダウンジャケットはしまいます。ほとんどの衣類がイトーヨーカ堂なのは、年間100万円もの買い物をする、ヘビーユーザーだからです(情報館、iy堂のポイント参照)。気温は0℃くらい、無風だったので、こんなものでしょう。

 スタートは10時20分。今回の登山で最も危険だったのが、最初の舗装道路歩きでした。テラテラに凍った部分があり、慎重に歩かないと転倒の可能性があります。スマホを操作しながら、注意散漫で、オットット、という場所が何回かありました。

 20分ほどで、登山口。ここには10人くらいの人がいて、登山の準備をしています。私たちは軽ーくパス。そのままツボ足で登ります。登山道の路面は、踏み固められていて、かと言って氷化しているわけでもありません。踏み跡が階段状につけられているので、アイゼン歩行より早く歩けます。しかし、およそ30分ほどで傾斜が強まり、ツボ足では滑るようになってきました。仕方なくアイゼン着用、ストックも登場です。

 さて急坂の傾斜は、どれほどのものなのでしょうか。地図によると、水平距離100メートル、標高差50メートルというところがあります。地図上での100メートル、登山道はある程度クネクネしているので、道のりは120メートルくらいでしょうか。ということは、tan(50÷120)=tan0.416…、三角関数表によれば、22度くらいであるようです。スキー場の中級者コースくらい、なかなかです。昭和43年、高石ともやの受験生ブルースをご存知の方、みんな還暦だよなあ。「お〜いで皆さん聞いとくれ」から始まります。「サイン、コサイン何になる?」という一節があり、高校生だった私は、おおいに感銘を受けたのですが、50年近くが経過した今、「確かに役にたってるじゃん」という気分です。

 当初のバスに間に合わせるため、そこそこのスピードで登ります。汗が噴き出します。サングラスも汗で曇り、背中からは湯気が立ち昇ります。予定では、11時40分に黒檜山だったのですが、10分遅れの11時50分に山頂です。風はそよ風程度、青空ではあるが、遠くの山は霞んでしまっています。まあまあ満足な気分で、12時10分、駒ケ岳に向って縦走開始です。進行方向左には、雪庇の張り出したところがあり、万一ホワイトアウトした場合など、注意が必要です。でも今回は晴天だし、普通にトレースをたどれば、問題ありませんでした。

 地図によれば、およそ200メートル下って、70メートルほどの登り返しです。下り20分、登り10分、30分くらいかなあとの予想。しかしコースタイムはおよそ1時間です、どんなものでしょうか。歩いていて、理由がわかりました。下りが思いのほか急なのです。脚力があまり強くない方には、急な下りが手ごわいのでしょう。また夏道では、階段状の部分が多く、あまり愉快な下りではないのかも知れません。しかし今回、完全な雪道なので、それほど足元に注意を払う必要がありません。アイゼンに頼って、バコバコ下ります。フォールラインに向って下れば、ガッチリと受け止めてくれます。しかし、アイゼンの爪を雪面に食い込ませるために、そっくり返って歩き続けたため、腿の前側の筋肉(大腿四頭筋)に疲労がきました。

 思ったとおり、およそ30分で駒ケ岳に到着です。小さな山頂ですが、なかなか趣のある場所です。振り返れば、歩いてきた稜線と黒檜山。眼下には大沼の景色が広がっています。バスの発車時刻まで1時間ほどあるので、もうセカセカする必要もありません。気分良くドンドン下り、13時20分ころ、大沼湖畔の車道に下り立ち、3分の車道歩きで赤城山ビジターセンターに到着しました。ゆっくりと身支度を済ませて、予定のバスに乗車しました。

 バスの終点は、JR前橋駅なのですが、私たちは1キロほど手前の、上毛電鉄・中央前橋駅バス停で下車します。JRの駅前にはエキータくらいしかないのですが、さすがはその名も中央前橋、ここが前橋の本来の繁華街であるようです。飲食店やさまざまな商店が立ち並び、結構りっぱな旧市街です。しかしご多聞にもれず、かなり重篤なシャッター街です。午後遅いという時間でもあり、人っ子一人歩いていません。群馬県は日本一の豚肉産地であり、名物はトンカツであるとのことなので、事前に食べログで、反省会のお店を決めていました。中央前橋から500メートルくらい「とんかつ大志」というお店。用意した地図に従って、川を渡り、200メートル先の信号を右折、そこから200メートルでお店のはずなのですが、見つかりません。相原さんが、誰かに聞いてきましょうかと言ってくれましたが、もう少し自力で探してみましょう。しかしどうしても見つからず、ついにギブアップ。目の前のかばん屋さんで聞いてみました。でもご存じないとのこと。「飲食店なら、この先にラーメン屋がありますよ」とのことですが、そんなところで反省会をするつもりはありません。反省だけならなんとかです。なんたってトンカツ。親父さんがパソコンで調べてくれました。すぐ隣りのスズランという商業ビル(地元のデパート)に入っているらしい。深く頭を下げて、お店にGOでありました。

 ヒレカツが売り物のお店らしいのですが、私はいつものとおりロースカツ。相原さんはエビフライとヒレカツのご膳。生ビール3杯ずつ。いやいや、うまかった。あとで調べると、お店は「スズラン4階」となっており、事前の調査不足、大反省でありました。満腹でJR前橋まで15分くらいのブラブラ歩き。途中、横浜銀行があり、「なんでこんなところに横浜銀行が?」と言いかける相原さんに、「桐生の織物を横浜に運ぶシルクロードだぜ」神奈川県人なら誰でも知っている、小学生時代のうんちくをたれる私です。

 JR前橋駅に16時48分到着、16時52分発の両毛線に乗車、高崎でも5分ほどの待ち時間で湘南新宿ラインに乗り、スイスイと東京へと帰ってきた次第。なお、今回使った切符ですが、JR東の「休日お出かけパス」2600円。これは高崎の手前、神保原まで有効なので、前橋までの乗り越し400円、帰りも400円で3400円。シーハイル上越の指定券510円です。行きのバス1450円、帰りは手前で降りたので1400円。とんかつ大志での反省会以外は、一銭も使いませんでした。帰りに高崎から池袋まで、グリーン車でも良かったと思っています。ちなみに駅での事前購入なら、たった750円です。えっ、高崎から新幹線?今回のアベノミクスが、平成の大バブルに発展したら考えてみることに致しましょう。


写真はこちらです。
1.相原さん撮影
2.常盤さん撮影

  以 上