◆上野原・「能岳・八重山」雪山報告   

  和田(則)さんから自主ワンのご報告を頂きましたので紹介いたします。

 
  • 2月15日に予定していた「雪のある山・高川山」は、荒天予想で中止となった。
    11日(祝)、8日の大雪が気になり、山に入った会員が3名いた。
    常盤さんはなじみの高尾山に、田中さんは通いの仏果山に、私は「雪のある山」の第2候補「能岳(のうだけ)・八重山」に向かった。
    高尾山も仏果山も能岳も、普段と違う顔に見せ、大雪で苦しかったり、危なかったり、雪の表情にうっとりとしたり、半日の雪山を楽しんだ。

  • 能岳(542m)・八重山(530m)は、中央本線の高尾駅の3つ先、上野原の町はずれにある里山。標高差は250m、2時間強で両山を歩け、そのまま商店街の裏山に入れば、計4時間余で駅に戻れる。ガイドブックには載っていないが、上野原駅にはパンフが置かれている。
    八重山は昭和初期に地元で生まれ育った水越八重さんが、お世話になった地元に恩返しとして寄付した山。現在小学校の学習の場「五感の森」として整備されている。

  • 数年程前に、奥多摩・笹尾根の下山口で帰りのバス時刻が合わず、上野原商店街まで歩いたことがある。その途中で能岳を見つけ気になっていた。
    一昨年初めて歩いたときに、能岳よりも八重山からの展望が素晴らしく、冬それも降雪後に歩きたい山となる。

  • 11日の予報は快晴。現地は曇り空に日差しが混じる天気。気温は5度程度で風はなく、まずまずの陽気。前夜は陽光の中、積雪20cmの雪山を快適に歩く姿をイメージし床についた。
    装備は例年12月から3月まで4本歯アイゼン、スパッツはザックに入れたままにしている。それに加え2月初めに購入したストック2本。行動食は非常食を別にし、いつもは菓子パンとおにぎりを計4個用意するのだが、快晴の低山雪山ハイクだからと、パン2個で済ませた。

  • 降り立った上野原駅構内は一面白色の世界。8時28分発飯尾行きバスに乗るのだが、駅前バスロータリーの様子がおかしい。大雪のためバスは郊外へは行かない、市内も中心部までの折り返しだという。除雪が間に合わず、昨日は終日運休、今日から一部区間で運行を始めたようだ。幹線道路は除雪されていたが、バスの対面通行はできない。まして、山に向かうルートは一切運休。大変な時に来てしまった。

  • バスで行けるところまで行こう。3、4人の客を乗せたバスは除雪車とすれ違いながら、丘の上の上野原の街へ入っていく。道路の両側には除雪された雪が積まれて、屋根瓦には50cmほどの積雪。地元の老人も、例年は降っても20cm、50cmの大雪は記憶にないという。

  • 折り返し点・本町三丁目で下車したのは、私のほかにもう1名、中年の登山者。生藤山に行くつもりが足の便がないため、バスターミナルの係員に「あの人(私のこと)も八重山に行くようだから、八重山にしたらどうか」と勧められるまま、能岳・八重山に変更した。彼はバスを下りると足早に登山口方面に向かった。私はロングスパッツを付け、いつでも山に入れる準備をした。

  • 商店街のはずれまで来て、食料が菓子パン2個ではまずいことに気づいた。ツボ足で歩くにしてもラッセルになるとしても体力を要する。腹が減っては動けなくなる。気づくのが遅かったとあわてたが、幸いなことに街と山の境にある最後の商店がパン屋系列の食品店だった。中に入るとパン陳列棚には肝心のパンがほとんどない。残り物の中からボリュームのある菓子パン2個を購入した。
    店のおかみさんいわく「8日の大雪でパンの配送がないの。今日やっと大月までやって来るそうでもう少しの我慢です」。あっそうか、隣の藤野は神奈川県だが、上野原は山梨県だ。甲府を中心に物流が周囲に広がる。ここは山梨の県境、辺境の地なのだ。
    おかみさんが続けて「能岳は誰も入ってないから、雪は深いですよ。8日に数人のグループが山に入ったが大雪で退散してきた。昨日はバスは動いてないし。」。
    「ありがとうございます。行けるところまで行ってみます」と内心面白いとワクワクし店を出た。

  • 食糧問題を解決し、トコトコ道路を歩いて行くと、山風呂地区からの能岳登山口。登山口であの登山者が足回りの準備、下を向き準備に忙しそうだったので、特に声もかけずに山に入った。新雪なのでアイゼンは不要。

  • 植林の山は薄暗く、雪面に足跡はなかった。雪は表面がわずかにクラストしていたが、柔らかく歩くのに支障はない。雪深は30cm。ひざ下あたりである。この程度ならルンルン気分、あとは雪だまり次第だ。雪だまりは所々にあり、ひざ上となる。一歩一歩足を抜くのが面倒な深さだ。わかんがほしい。そうはいっても、湿気のない雪は楽だ。

  • 誰もいない雪の森や稜線を歩くのは心地よい。静寂の森を焦らずにリズミカルに一歩、一歩足を進める。この雪山を歩き通せたら、気分は最高。
    雪だまりで一息ついていると、後ろからあの彼がやってきた。「ラッセルありがとうございます。助かりました。ここからは私が先に行きます」と挨拶し、抜き去って行った。
    私はこれで交互にラッセルでき助かったと思った。ひとりで雪山に足跡をつける充実感はなくなるが、体力を消耗させる山行でもない。彼の足取りは軽いようでその後追いつけなかった。追いつけないのがわかったら、最初の足跡でないのが残念に。

  • 彼のツボ足跡を拾って歩いたが、歩幅が広く私には合わない。足跡を拾うのはやめ、マイペースで足跡をつけた。彼は膝がきちんと上がっているようで、足跡が美しい。それに比べ膝が十分に上がっていない私の汚い足跡。トレースを作ることにした。踵を上げて脛をそのまま前に出せばトレースらしきはできる。ツボ足で都度足を上げるより楽だ。

  • 雪だまりに残る彼の足跡からは、難儀なラッセル様子が思い浮かんだ。植林が竹林に代わると、稜線の一角に飛び出る。稜線は落葉広葉樹林に覆われ空が明るい。稜線はゴルフ場との敷地境界線で、左下には上野原カントリークラブの雪をかぶったフェアウェイが広がっている。

  • 能岳手前の小ピークから山頂までコースタイムは15分。山頂まで25分と踏んだ。頂直下は樹木が生えておらず、巾10m前後の雪の帯が縦に延びている。標高差40m、急な登り斜面に足を進めると雪だまりだった。
    彼の足跡がとても乱れジグザグにルートを取っていた。そのあとを追う。足元が不確かで安定しない。踏み抜かない程度に足元を2度3度軽く踏み固め、脛で雪を圧縮しながら登る。腰に及ぶ雪の急坂では足をいくら上げても足元が崩れた。脇に伸びた灌木の幹に手をかけ体を持ち上げる。雪の下には丸太の階段があるはずなのに、雪を踏み抜いても地面には届かなかった。

  • 15分のところを1時間かかり能岳山頂に到着。落葉樹に囲まれた能岳山頂で昼食。テルモスの紅茶で菓子パンを2個食べる。すぐ隣には八重山の山頂部が見えた。頂周辺は皆伐され桜の苗木が植えてある。10年後には桜の山となるが今は雪原の山。彼の足跡はその八重山に向かっていた。

  • 12時には駅前でラーメンを食べている程度の山と言って自宅を出てきた。今、12時10分だ。雪の深そうな八重山は次回の機会に歩けばよい、と下山を決めた。八重山との鞍部から谷合いを山風呂あるいは新井へ下ることにした。足跡はない。谷あいコースは雪が深いが負担は少ないし気も楽だ。山道らしき形状に目星をつけ歩く。コースは谷あいではなく尾根の中腹を巻いていた。雪だまりが多く腿まで潜ることもあった。

  • U字のトラバース道に上部から小さな雪玉が広がっていた。山道の形もない一枚の雪斜面である。いやらしい。足を入れると足元から崩れる。雪が1m積っているとするなら、道筋と思われるポイントより1m山側にルートを取らないと斜面から滑り落ちてしまう。山側の雪は腰以上となり、足元の柔らかい雪が崩れない程度に圧縮しながら、慎重に通過した。
    植林帯の中なので、滑り落ちても怪我はしないだろう。しかし雪中をもがき山道まで登り返すのが大変だ。
    身近な山で降雪後のトラバースで危険だと思う場所は、丹沢・蓑毛からヤビツ峠に至る柏木林道だと思う。急斜面を道が巻いているので新雪時にはビビりそうだ。

  • 下りていくと、樹間から砦のような要害山と右奥には権現山が見えてきた。要害山はそれこそ小さい山だが新緑時の美しさや麓集落の佇まいは格別に違いない。新井集落に入ると、家々の前でスコップを手にした老人達があちこちで立ち話をしていた。45分のコースが1時間10分かかった。

  • 本町三丁目のバス停で八重山方面から下りてきた彼と運よく出会った。
    「八重山はどうでしたか。ラッセルをお借りし助かりました。私は能岳から里に下りました」。「能岳まではいかれたのですね。山頂直下はすごかったですね。胸までのラッセルで大変でした。八重山はそんなに大変ではなかったです。こんなに低い山で「未踏の山」を完歩するなんて思いもしませんでした」
    この日入山したのは二人だけのようだ。

  • 上野原駅前には14時すぎに着いた。そのまま駅前の「一福食堂」へ。牡蠣バターラーメンにシャシューをトッピング。テレビで女子カーリング韓国戦を見ながら、体を温め、駅に向かった。
    低く小さい山も馬鹿にできないときがある、そのような山歩きで充実した半日となった。

  • さて、常盤さんの高尾山は、8日は65cmの積雪。11日は稲荷山コースの最初の急坂からツルツルの斜面、慎重に歩いた。山頂からの下りが200mほどの長さにわたり一枚アイスバーンとなり、危険すら感じたとのこと。15日の積雪は110cmとなった。

  • 田中さんの仏果山は、新年山行と同じコースを辿りツボ足で膝までの積雪。稜線の宮ヶ瀬越まで登り、そこから先はワカンのトレースが引き返していたので、それ以上の登頂を断念したとのこと。

  • 話は変わるが、若い頃、降雪後の山、高尾山でも雲取山のメインコースでもよいのだが、早朝、ワカンを履き10数人でラッセルする。登山者が登ってくる前に立派なトレースをつけておいたら、皆びっくりするだろうな、楽しいなと思った。2時間の登りコースなら、先頭ラッセルをひとり5分で、2回やればよい。これももはや夢の夢になった。


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