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<7月12日、西吾野、森坂峠付近で道迷い>
西武秩父線沿線に、ハイキングに適当な山がいくつかあります。武甲山、大持山、小持山、武川岳など、それぞれ、最寄り駅から2時間程度で頂上に立つことができます。
この地域(奥武蔵)の山の中で、正丸峠から伊豆ヶ岳、子の権現(ねのごんげん)を結ぶコースは変化に富んでおり、多分人気ナンバーワンであるかと思います。特に、伊豆ヶ岳頂上直下の男坂は、傾斜の強い岩場となっていて、鎖に頼ってよじ登る、スリルある人気スポットです。ただし、崩落の危険があるとのことで、一応通行禁止となっています。もしかすると、自己責任でとなっていたかも知れません。
この伊豆ヶ岳、通常は西武秩父線・正丸駅から歩き始めます。正丸峠経由でも良いし、二股に別れた道を左にとって、直接頂上近くの稜線に出ることも可能です。しかし、ひとつ手前の西吾野駅を起点とし、「伊豆ヶ岳東尾根」という「前穂高岳北尾根」のような、ネーミングのバリエーションルートで頂上を目指すこともできます。
伊豆ヶ岳東尾根について、早速インターネットで検索してみましょう。まず、西吾野駅から国道に出て、南に少し進み、GSの先で細い道に入ります。ゆるい道をしばらく行くと、森坂峠という峠に達し、少し下って下久通(しもくずう)という集落に入ります。
サイトによると、峠の手前で道が左右に分かれ、そこは左に行くことになっています。これが大事です。下久通集落の少し先に、琴平神社があり、境内の裏から伊豆ヶ岳東尾根が始まります。各所にテープの目印があるそうです。地図のうえでは、北から→西方向、正丸駅→正丸峠、西吾野駅→伊豆ヶ岳、吾野駅→子の権現という関係です。
7月12日、快晴・猛暑。上板橋5時13分発の東上線乗車、池袋5時39分発の西武池袋線飯能行きに乗り換えです。飯能では、同じホームの反対側に西武秩父行きが待っています。西吾野駅に、6時59分到着です。なお今回のツールは、昭文社エアリアマップ、カシオプロトレック(高度計)、iphoneのGPSアプリ・field accessです。
西吾野駅前から2~3分で、国道299号です。飯能方向に200メートルほど戻ると、コスモ石油のGSがあり、その少し先に右に向かう道があります。ゲートがあり、事前の予習で、ここが森坂峠への入り口であることがわかります。
小さな沢をさかのぼるように道がつけられていますが、草ボウボウです。虫がブンブン飛んでおり、こういう荒れた所はあまり好きではありません。国道の峠道入口が220メートル、森坂峠365メートル、標高差およそ150メートルなので、およそ20分くらいでしょうか。
国道から15分くらい登ったところに、右、本陣山・森坂峠・イモリ山、という標識があります。事前の学習で、森坂峠の手前の二股は、左だったのを覚えています。この標識の地点は、まさにそこであり、標識を無視して、左方向に進みます。峠までの道のり、多分300メートルくらいであろうし、どちらでも大差ないでしょう。なお、本陣山・イモリ山、事前の調査ではなんの記憶も残っていません。
倒木があって歩きにくい踏み跡ですが、もう少しで峠のはずです。しかし、さきほどの標識から20分くらい登り続けています。ちょっとおかしいです。やがて、前方に峠のような地形が見えてきました。やれやれ、ずいぶん苦労させてくれたわい。
ようやく小さな鞍部に出ました。標識はないが、これが森坂峠でしょう。かすかな踏み跡に従って、下りにかかります。適当に、道らしきものを拾って下るのですが、だんだんと怪しくなってきます。気が付けば、踏み跡のないところに出てしまいます。30メートルくらい先に、踏み跡らしきものが見えるので、それに向かってバランスを取りながら下ります。ちょっと困ったなあ。
ようやく人工物が見えてきて、正直ホッとしました。実は、登りより下りの方がよっぽど大変で、身体中から汗が吹き出しています。人工物はお墓で、そのすぐ先に何軒かの家がありました。車が置いてあり、洗濯物が干してあります。住んでいます。ああ、良かった、これが下久通でしょうか。ここで、初めてGPSで位置を確認してみました。標識を左に進んだところから、そんな余裕はなかったのです。
field access 、現在位置はもちろん、歩いた軌跡もわかります。びっくりしました。さきほどの標識と思われる地点から、正しくはそのまま西に向かって森坂峠なのですが、軌跡から、私は急激に南方向に進んでしまっていたのです。本来の道より1キロくらい南下して、下久通とはまったく別の、小床(こいか)という集落らしいです。でも半信半疑。
あまりにも暑いので、持参のお茶を飲みます。タバコを1本吸って、気分を鎮めます。GPSがあって良かった。これがないと、現在地がわからなかったはずです。これからどうすべきか、ゆっくり考えられます。ただし、iphoneを地図代わりに使おうとすると、画面が小さくて、それを頭で理解することが難しいのです。
目的の下久通にいないのだから、現在地をきちんと把握して、どこに行くべきか決めなければなりません。ところが、私のとった行動は、自分自身でも理解できない、不可思議なものでした。
小床集落から、車道を東方向に下って行けば、およそ1キロで国道299号線に出ます。さきほど峠道に入ったGSのすぐ先です。逆に行くと、子の権現へと向かう登山道です。国道に出てしまえば、そのまま帰ってしまうことになりそうなので、とりあえず子の権現方面へと向かいます。
数分後、子の権現方面への登山道との標識のところで、神社が見えてきました。もしかしたら、下久通の琴平神社じゃあないかしら?冷静に考えれば、場所がまったく違うのです。そんなことはありっこないのです。でも、自分自身、確かにそのように考えていた記憶があります。多少、動揺していたのかもしれません。
「神社の社の裏から登山道が始まる」これでした。この琴平神社(ではありません)の鳥居をくぐり、一段高いところに登ります。踏み跡らしきものがあるので、適当に高いところに向かって登り始めました。いよいよ、伊豆ヶ岳東尾根の始まりです、という根拠のない思い込みです。
最初から明瞭な踏み跡ではなかったのですが、しだいに単なる急な斜面になります。斜度もきつくなり、多分40度くらいになってきました。木につかまらなければ登れません。脆そうな岩をつかむと、すっぽ抜けて、ゴロゴロと転がり落ちるのです。でも、あきらめて下るわけにはいきません。下を見ると、下りの重量をもう支えてくれる立木などありません。もう、登るっきゃない。
深い山ではなく、自分の位置がまったくわからないわけではない。天候は安定している。空腹でもないし、飲み水も十分ある。それほど疲れているわけではない。というわけで、危機感はありませんでしたが、精神的にはいかにも思い込み老人です。その時の自分、いったいどうしようとしていたのでしょうか?
とあるピークに登りつき、スマホで位置を確認します(iphoneを操作するたびに、軍手をとらなければならず、わずらわしい)。ああ、登山道に出たようです。子の権現方向に進みます。登山道って、単なる山の斜面と比べると、なんて歩きやすいのでしょうか。もう安心です。権現様にお参りして、さっさと帰ることにしましょう。
しかしこの登山道、field accessに取り込んだ5万図に記載されてはいますが、メインのルートではないようです。ほとんど標識がありません。ある地点で、道が十字路になっています。5万図によると、T字路のはずなのです。左右とも下り、真っすぐが登りです。左の下りは、さっきの小床集落へ戻ります。子の権現はここより200メートルくらい高いところにあります。あとで調べたら、ここは右の道に入り、いったん下った道がすぐに登りになる、だったのです。しかし、迷った末に選択したのは、真っすぐ方向に登る、でした。
こういった、地図とは違う分岐が出てきた場合、GPSがないと適切な判断が出来かねます。しかし持っていても、適切に使用しなければ、宝の持ち腐れです。ほんの2~3分歩いて、位置確認をすれば、正しい方向か否か、すぐにわかります。ちょっとめんどくさいし、思い込み老人でもあり、道迷いが意外に楽しいことを知った私、まあ良いかというところです。またまた、道があやしくなってきました。
怪しい道をしばらく登り、道が踏み跡になってしばらく下る。ちょっと冷や冷やしましたが、ようやく「浅見茶屋5分」の標識が出てきました。子の権現から30分ほど下ったところにある茶屋です。ここに出ちゃうのか、こんなところから、子の権現に登り返す気力はありません。ようやく気持ちが固まりました。もう、今日はこれで終わりです。標識通り5分で茶屋の横に出て、吾野駅に向かって下り始めることにしました。
森坂峠手前の標識を無視したのが7時半ころ、浅見茶屋横に出たのが9時半ころ。およそ2時間の道迷いでした。それほど深刻ではなく、迷っているという感覚は、ちょっと甘美であります。しかし、顕著な尾根とか沢でない、適当な斜面を登るのは、けっこう危険も伴います。また、明らかに違う別の神社を、目印の琴平神社と思いこむとは、いったいどんな精神状態だったのでしょうか?それほどの美貌ではないのに、小悪魔のような女性に翻弄される自分、それも良いですね。ちょっと大げさかな。 |