◆「伊豆ヶ岳・東尾根」報告  

  常盤さんから自主ワンのご報告を頂きましたので紹介いたします。

 
もくじ
  1. 一回目(7月12日)・撤退の記録
  2. 一回目のルート検証
  3. 二回目(7月19日)・登頂の記録
  4. 二回目のルート検証


1.一回目・撤退の記録
  
<7月12日、西吾野、森坂峠付近で道迷い>

 西武秩父線沿線に、ハイキングに適当な山がいくつかあります。武甲山、大持山、小持山、武川岳など、それぞれ、最寄り駅から2時間程度で頂上に立つことができます。

 この地域(奥武蔵)の山の中で、正丸峠から伊豆ヶ岳、子の権現(ねのごんげん)を結ぶコースは変化に富んでおり、多分人気ナンバーワンであるかと思います。特に、伊豆ヶ岳頂上直下の男坂は、傾斜の強い岩場となっていて、鎖に頼ってよじ登る、スリルある人気スポットです。ただし、崩落の危険があるとのことで、一応通行禁止となっています。もしかすると、自己責任でとなっていたかも知れません。

 この伊豆ヶ岳、通常は西武秩父線・正丸駅から歩き始めます。正丸峠経由でも良いし、二股に別れた道を左にとって、直接頂上近くの稜線に出ることも可能です。しかし、ひとつ手前の西吾野駅を起点とし、「伊豆ヶ岳東尾根」という「前穂高岳北尾根」のような、ネーミングのバリエーションルートで頂上を目指すこともできます。

 伊豆ヶ岳東尾根について、早速インターネットで検索してみましょう。まず、西吾野駅から国道に出て、南に少し進み、GSの先で細い道に入ります。ゆるい道をしばらく行くと、森坂峠という峠に達し、少し下って下久通(しもくずう)という集落に入ります。

 サイトによると、峠の手前で道が左右に分かれ、そこは左に行くことになっています。これが大事です。下久通集落の少し先に、琴平神社があり、境内の裏から伊豆ヶ岳東尾根が始まります。各所にテープの目印があるそうです。地図のうえでは、北から→西方向、正丸駅→正丸峠、西吾野駅→伊豆ヶ岳、吾野駅→子の権現という関係です。

 7月12日、快晴・猛暑。上板橋5時13分発の東上線乗車、池袋5時39分発の西武池袋線飯能行きに乗り換えです。飯能では、同じホームの反対側に西武秩父行きが待っています。西吾野駅に、6時59分到着です。なお今回のツールは、昭文社エアリアマップ、カシオプロトレック(高度計)、iphoneのGPSアプリ・field accessです。

 西吾野駅前から2〜3分で、国道299号です。飯能方向に200メートルほど戻ると、コスモ石油のGSがあり、その少し先に右に向かう道があります。ゲートがあり、事前の予習で、ここが森坂峠への入り口であることがわかります。

 小さな沢をさかのぼるように道がつけられていますが、草ボウボウです。虫がブンブン飛んでおり、こういう荒れた所はあまり好きではありません。国道の峠道入口が220メートル、森坂峠365メートル、標高差およそ150メートルなので、およそ20分くらいでしょうか。

 国道から15分くらい登ったところに、右、本陣山・森坂峠・イモリ山、という標識があります。事前の学習で、森坂峠の手前の二股は、左だったのを覚えています。この標識の地点は、まさにそこであり、標識を無視して、左方向に進みます。峠までの道のり、多分300メートルくらいであろうし、どちらでも大差ないでしょう。なお、本陣山・イモリ山、事前の調査ではなんの記憶も残っていません。

 倒木があって歩きにくい踏み跡ですが、もう少しで峠のはずです。しかし、さきほどの標識から20分くらい登り続けています。ちょっとおかしいです。やがて、前方に峠のような地形が見えてきました。やれやれ、ずいぶん苦労させてくれたわい。

 ようやく小さな鞍部に出ました。標識はないが、これが森坂峠でしょう。かすかな踏み跡に従って、下りにかかります。適当に、道らしきものを拾って下るのですが、だんだんと怪しくなってきます。気が付けば、踏み跡のないところに出てしまいます。30メートルくらい先に、踏み跡らしきものが見えるので、それに向かってバランスを取りながら下ります。ちょっと困ったなあ。

 ようやく人工物が見えてきて、正直ホッとしました。実は、登りより下りの方がよっぽど大変で、身体中から汗が吹き出しています。人工物はお墓で、そのすぐ先に何軒かの家がありました。車が置いてあり、洗濯物が干してあります。住んでいます。ああ、良かった、これが下久通でしょうか。ここで、初めてGPSで位置を確認してみました。標識を左に進んだところから、そんな余裕はなかったのです。

 field access 、現在位置はもちろん、歩いた軌跡もわかります。びっくりしました。さきほどの標識と思われる地点から、正しくはそのまま西に向かって森坂峠なのですが、軌跡から、私は急激に南方向に進んでしまっていたのです。本来の道より1キロくらい南下して、下久通とはまったく別の、小床(こいか)という集落らしいです。でも半信半疑。

 あまりにも暑いので、持参のお茶を飲みます。タバコを1本吸って、気分を鎮めます。GPSがあって良かった。これがないと、現在地がわからなかったはずです。これからどうすべきか、ゆっくり考えられます。ただし、iphoneを地図代わりに使おうとすると、画面が小さくて、それを頭で理解することが難しいのです。

 目的の下久通にいないのだから、現在地をきちんと把握して、どこに行くべきか決めなければなりません。ところが、私のとった行動は、自分自身でも理解できない、不可思議なものでした。

 小床集落から、車道を東方向に下って行けば、およそ1キロで国道299号線に出ます。さきほど峠道に入ったGSのすぐ先です。逆に行くと、子の権現へと向かう登山道です。国道に出てしまえば、そのまま帰ってしまうことになりそうなので、とりあえず子の権現方面へと向かいます。

 数分後、子の権現方面への登山道との標識のところで、神社が見えてきました。もしかしたら、下久通の琴平神社じゃあないかしら?冷静に考えれば、場所がまったく違うのです。そんなことはありっこないのです。でも、自分自身、確かにそのように考えていた記憶があります。多少、動揺していたのかもしれません。

 「神社の社の裏から登山道が始まる」これでした。この琴平神社(ではありません)の鳥居をくぐり、一段高いところに登ります。踏み跡らしきものがあるので、適当に高いところに向かって登り始めました。いよいよ、伊豆ヶ岳東尾根の始まりです、という根拠のない思い込みです。

 最初から明瞭な踏み跡ではなかったのですが、しだいに単なる急な斜面になります。斜度もきつくなり、多分40度くらいになってきました。木につかまらなければ登れません。脆そうな岩をつかむと、すっぽ抜けて、ゴロゴロと転がり落ちるのです。でも、あきらめて下るわけにはいきません。下を見ると、下りの重量をもう支えてくれる立木などありません。もう、登るっきゃない。

 深い山ではなく、自分の位置がまったくわからないわけではない。天候は安定している。空腹でもないし、飲み水も十分ある。それほど疲れているわけではない。というわけで、危機感はありませんでしたが、精神的にはいかにも思い込み老人です。その時の自分、いったいどうしようとしていたのでしょうか?

 とあるピークに登りつき、スマホで位置を確認します(iphoneを操作するたびに、軍手をとらなければならず、わずらわしい)。ああ、登山道に出たようです。子の権現方向に進みます。登山道って、単なる山の斜面と比べると、なんて歩きやすいのでしょうか。もう安心です。権現様にお参りして、さっさと帰ることにしましょう。

 しかしこの登山道、field accessに取り込んだ5万図に記載されてはいますが、メインのルートではないようです。ほとんど標識がありません。ある地点で、道が十字路になっています。5万図によると、T字路のはずなのです。左右とも下り、真っすぐが登りです。左の下りは、さっきの小床集落へ戻ります。子の権現はここより200メートルくらい高いところにあります。あとで調べたら、ここは右の道に入り、いったん下った道がすぐに登りになる、だったのです。しかし、迷った末に選択したのは、真っすぐ方向に登る、でした。

 こういった、地図とは違う分岐が出てきた場合、GPSがないと適切な判断が出来かねます。しかし持っていても、適切に使用しなければ、宝の持ち腐れです。ほんの2〜3分歩いて、位置確認をすれば、正しい方向か否か、すぐにわかります。ちょっとめんどくさいし、思い込み老人でもあり、道迷いが意外に楽しいことを知った私、まあ良いかというところです。またまた、道があやしくなってきました。

 怪しい道をしばらく登り、道が踏み跡になってしばらく下る。ちょっと冷や冷やしましたが、ようやく「浅見茶屋5分」の標識が出てきました。子の権現から30分ほど下ったところにある茶屋です。ここに出ちゃうのか、こんなところから、子の権現に登り返す気力はありません。ようやく気持ちが固まりました。もう、今日はこれで終わりです。標識通り5分で茶屋の横に出て、吾野駅に向かって下り始めることにしました。

 森坂峠手前の標識を無視したのが7時半ころ、浅見茶屋横に出たのが9時半ころ。およそ2時間の道迷いでした。それほど深刻ではなく、迷っているという感覚は、ちょっと甘美であります。しかし、顕著な尾根とか沢でない、適当な斜面を登るのは、けっこう危険も伴います。また、明らかに違う別の神社を、目印の琴平神社と思いこむとは、いったいどんな精神状態だったのでしょうか?それほどの美貌ではないのに、小悪魔のような女性に翻弄される自分、それも良いですね。ちょっと大げさかな。


2.一回目のルート検証
  
<西吾野、森坂峠付近、地図説明>
   
 西吾野駅から西へ、国道に出たら南に向かった。国道沿いに、山崎という集落、人家が終わるあたりにコスモ石油のGSがあり、地図にもある橋で高麗川を渡る。そのまま西の方向(地図に道の記載はない)に進み、多分300と書いてあるすぐ北あたりに森坂峠への標識がある。地図上は、まっすぐ西へ、標高差50メートルくらいの鞍部が森坂峠であるが、300の3あたりを南西の沢沿いに進み、道なり、沢沿いに南の方向に進んだ模様。412のピークと、その西の430くらいのピークとの鞍部、ここを森坂峠と考え、南方向、微東へと、道のない斜面を下ったら、集落に出た。ここでGPSで確認、小床(ゆかとなっているが、こいかと読むらしい)に下りてしまったことがわかる。小床から北東方向に下れば、国道に出て振り出しなので、子の権現方向に向かうこととする。小床集落の西はずれから、子の権現への登山道が始まるが、そこに神社があった(地図には記載なし)。これが下久通の琴平神社に違いない、と思う。そんなことはありえないのに。子の権現への道は南に向かっているが、ほぼ真西の崖を登り、地図上の下久通と書いてある(2つあるが、下のほう)集落手前の小稜線の鞍部に出た。ここから南方向には、はっきりとした踏み跡があった。一般登山道とは言えないが、なんの苦労もない道だった。稜線通しに南へ。高圧線を過ぎしばらくで、小床〜子の権現への登山道とぶつかる。ここには標識はなかった。左は小床に戻ってしまうのはわかった。右に行くのが正しい。しかし、右も下っている(あとでわかったことだが、いったん下った道は、すぐに登りになる)。子の権現の標高は、ここより200メートルくらい高い。まっすぐ登っていく踏み跡があり、これに従う。地図では、南に465のピークがあるが、これに向かっていたことになる。途中で踏み跡がなくなる。465ピークの東南東に卍マークがあるが、この少し手前に浅見茶屋があり、そこに出た。再度、子の権現に登り返す気力なく、そのまま車道を下り、吾野駅に向う。 





3.二回目・登頂の記録
  
<7月19日、伊豆ヶ岳・東尾根、再チャレンジ>

 前回から、1週間が経過しました。その間、台風11号が大暴れし、各地に被害をもたらしました。7月18日(土)は、雨上がりでしたが、にわか雨が予想される不安定な天候だったため、再チャレンジは翌日、19日としました。装備は、前週とほぼ同じ、プラス虫除けスプレー。

 7時に西吾野駅に下り立ち、一服して、7時08分スタート。台風の影響が残り、川は増水気味でした。

 コスモ石油GSの先の橋を渡り、森坂峠を目指します。草が濡れていて、ムンムンしており、ちょっと嫌な感じは先週と同じ。

 国道から10分くらい、標識のところに着きました。大雨と風で、木からはずれていますが、ここが前回間違えた場所です。

 右斜め方向に登っていくと、上方が明るくなり、峠の近いことがわかります。森坂峠では、本陣山とイモリ山を左右に、直進して下久通集落です。

 車道を右に、川を渡ったら左です。なんてことないです。右を注意しながら歩いていたら、上のほうに鳥居発見。琴平神社に間違いなさそうです。

 階段を登り、鳥居をくぐり、その上に拝殿があります。ここで一休みして、左の登山道に入ると、さらに一段上に、もうひとつ拝殿がありました。ちゃんと、二礼二拍手一礼しましたよ。

 ここが伊豆ヶ岳東尾根の入口です。まあまあ登山道と言えなくもない、はっきりとした踏み跡があります。ただし急です。

 登りはじめてすぐ、「キョエー」という大きな鳴き声がしました。たぶん、カモシカだろうと思います。この一帯にはカモシカが生息しており、できれば出会いたかったのです(声だけで、お姿は拝見できませんでした)。

 しばらくすると、「ピー」という鳴き声。これは鹿です。そして100メートルくらい前方に鹿発見。しかし3秒くらいで横切ってしまったので、撮影できませんでした。今回、失敗だったのは洗いざらしの古い軍手。縮んでしまっており、着脱がもどかしい。スマホでの位置確認や、カメラの操作の際に不便でした。

 東尾根、中盤になると、地図ではゆるやかになることになっています。しかし、5メートルくらいのアップ、同じくらいのダウンの連続で、気楽にランララランという具合ではありません。けっこう息が上がります。

 伊豆ヶ岳の頂上が850メートル、もう少しの700メートルあたりで、踏み跡がなくなってしまいました。まっすぐ上を目指すか、かすかな踏み跡のようなものに従うか迷いましたが、踏み跡を頼りにちょっとトラバース気味に進みました。

 案の定、踏み跡がなくなり、しかたなく脆い崖になったところを、無理やり登ります。たった50メートルくらいですが、危ないし苦しいです。やっとの思いで、正しい踏み跡に戻ります。

 残りの標高差70〜80メートルのところに到達。これまで以上に傾斜が増し、このコース初めてのお助けトラロープが登場です。路面はヌルヌルしていたり、脆い岩だったり、非常に苦しい。

 頭の上20メートルくらいのところに、頂上らしい雰囲気の空間が見えてきますが、まわりがゴミだらけです。何十年か前は、頂上からゴミを投げ捨てる(いずれ土に還る)のが常識でしたが、100年たっても還りそうにありません。

 飛び出したのは、頂上の標識のすぐ横でした。もう苦しくて苦しくて、暑くて暑くて。一般の登山者も暑そうでしたが、こちらはそれどころではありません。血液が沸騰したような感じ。

 稜線を縦走して子の権現?そんな気力ゼロです。15分くらい休みましたが、汗が引く気配なく、正丸駅に向って一気に下山です。

 頂上を出発したのが、10時20分、正丸駅発の電車は11時26分、11時59分です。台風の大雨で、ヌルヌルと滑りやすい道。11時59分には間に合いそうです。

 男坂の上の場所、ロープが張ってあり、事実上通行禁止です。女坂を下り、男坂との分岐に着くと、男坂を登っている人がいます。禁止とはなっておらず、自己責任となっています。登りより下りのほうが危ないもんな。

 途中、若い女性ハイカーに呼び止められ、スマホを見せられて、ここはどこかでしょうかと尋ねられました。こんなこと初めて。そうか、60すぎの爺さんだもの、安全パイなのね。

 傾斜が緩くなると、つい足が速まります。馬頭様で車道に出てからは、走り始めました。1分で150歩、1歩が80センチとすると、分速120メートル、時速7.2キロ。がんばった甲斐があって、11時26分の電車に無事乗車できました。駅前の自販機で、カロリーゼロのコカコーラを買いましたが、普通の砂糖味のほうが、おいしいような気がしました。 


4.二回目のルート検証
  
<伊豆ヶ岳・東尾根、地図説明>
 
 森坂峠を越えて、下久通集落です。地図の右下、下久通、通の右に三叉路がありますが、その少し手前(南)に出ます。三叉路を左に、下久通の通の左に神社のマークがありますが、これが琴平神社です。あとは尾根通しに西へ西へ(微北)と向かいます。670ピークあたりが平らに見えますが、小さなアップダウンの連続です。少し下って登り返すところで、進行方向右の、谷方向に進んでしまい、修正するのに苦労しました。地図上、縦に「伊豆ヶ岳」と書いてある左(頂上直前)、等高線が非常に混みあっていますが、ここが苦しくて苦しくてたまらなかったところ。縦の「伊豆ヶ岳」、伊の上に岩場マークがありますが、男坂です。これまでに2回ほど登ったことありますが、スリルがあって楽しい場所です。ただ、ほんの少し(横に1メートルほど)ルートを誤まっただけで、きわどい思いをした経験があります。下りには適しません。  




写真はこちらです。


 
   以上